「慰安婦」立法 Archive

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日弁連「日本軍「慰安婦」問題の最終的解決に関する提言」への疑問 (1)

 少し前のことになるが、12月11日に東京で、「戦争と植民地支配下における被害者の救済に向けて ~韓国併合100年を機に過去・現在・未来を語る~」という日韓弁護士会共同シンポジウムが開催された。私はシンポジウムに参加していないので、その場でどのような議論がなされたのかは把握していないが、その後に発表された「日本軍「慰安婦」問題の最終的解決に関する提言」を読んで、かなり深刻な疑問を覚えたため、「提言」に即して述べてみたい。

 「日本軍「慰安婦」問題の最終的解決に関する提言」は、日本弁護士連合会(日弁連)と大韓弁護士協会(大韓弁協)による共同立法提言である(ということになっている)が、なぜか日弁連のサイトには文面が上がっていないようなので、ここではNPJにアップロードされているPDFファイルを検討する(余談というか本題というか、NPJは、第二の「国民基金」=「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」(促進法)を積極的に推進する「戦後補償問題を考える弁護士連絡協議会」(弁連協)に所属し、「花岡和解」・「西松和解」を導いた内田雅敏弁護士による、それらの「和解」の自画自賛を含む内容の記事を連載している)。

 ところで、共同通信はこの「提言」について、「「慰安所」制度が国際法に違反する人権侵害であったことを日本政府が認め、被害者への謝罪と金銭的補償を実施。問題の徹底した全容解明のため、国会や政府内に調査機関を設けるなど立法措置を行うことを求めている」と報じている(強調は引用者による。以下同様)。実際、「提言」は次のようなものである。


第1 日本軍「慰安婦」制度被害者の被害救済のための立法を行うこと。その法律には下記の内容を含めること。
 1 日本軍が今次大戦及びそれに至る時期において,直接的あるいは間接的な関与のもとに設置運営した「慰安所」等における女性に対する組織的かつ継続的な性的行為の強制が,当時の国際法・国内法に違反する重大な人権侵害であり,女性に対する名誉と尊厳を深く傷つけるものであったことを認め,日本国として被害者に対し謝罪すること。
 2 日本国として上記の責任を明らかにし,被害者の名誉と尊厳の回復のための措置として,金銭の補償を含む措置を取ること。
 3 事業実施にあたっては,内閣総理大臣及び関係閣僚を含む実施委員会を設置し,被害者及び被害者を代理する者の意見を聴取して行うこと。

第2 日本軍「慰安婦」問題のより徹底した全容解明のために,国会あるいは行政府内に調査機関を設けるなど適当な措置を取ること。

第3 教育,広報等を通じて,この問題の真相が社会に広く定着し,さらに広く広がるように配慮する。特にこれまでくり返し明らかにされた日本政府の見解を貶める言説については,政府として反論をし,政府の立場を明確にすること。


 NPJ:「日本軍「慰安婦」問題の最終的解決に関する提言」
 http://www.news-pj.net/bengoshikai/pdf/2010/201012-teigen.pdf

 部分的――特に「第3」の後半――には釈然としないところが残るものの(そもそも「これまでくり返し明らかにされた日本政府の見解」=河野談話の踏襲ではまったく不十分だからこそ、日本軍「慰安婦」問題が「当時の国際法・国内法に違反する重大な人権侵害で・・・あったことを認め,日本国として被害者に対し謝罪すること」という「提言」が要請されるはずである)、これらをそのまま読む限り、「提言」に疑いを差し挟む理由はほとんどないように思える。

 ところが、ご覧のように、上記ファイルには「提言」に続いて「提言の説明」という項目が3ページに渡って展開されている。そして奇妙なことに、この「提言の説明」は、当の「提言」内容(主に第1の1)を曖昧にする目的で、わざわざ付け加えられているようにすら見えるのである。手始めに、「5 対象事実の評価」を挙げてみよう。


 5 対象事実の評価
 当時の国際法・国内法に違反する行為であったこと,そしてそれが女性の名誉と尊厳を深く傷つけた行為であったことを明確にする。このことは,河野内閣官房長官談話をあらためて再確認することでもある。


 ・・・・・・???

 というわけで、頭を整理するために、河野談話(全文)を引いておこう。要旨を記憶されている方は読み飛ばしてほしい。

 「いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。

 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。

 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。

 われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。

 なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。」

 外務省:「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

 では、「提言の説明」を「あらためて再確認」してみよう(文中アルファベットは引用者による)。


 5 対象事実の評価
 当時の国際法・国内法に違反する行為であったこと〔A〕,そしてそれが女性の名誉と尊厳を深く傷つけた行為であったこと〔B〕を明確にする。このこと〔C〕は,河野内閣官房長官談話をあらためて再確認すること〔D〕でもある。


 言うまでもなく、河野談話が認めているのは〔B〕のみであり、〔A〕は言及すらされていない。河野談話を知らない人間がこの文章を読めば、〔D〕は当然〔A〕と〔B〕両方(の明確化)を含むと考えるだろうし、河野談話を知る人間が読んでも、日本語としてはそのように解釈するのが自然だろう。つまり、〔C〕=〔D〕であり、「明確にする」という言葉は〔A〕と〔B〕両方にかかっているので、〔D〕=〔C〕=〔A〕+〔B〕(を明確にすること)と読むわけである。しかし繰り返すが、実態として〔D〕は〔A〕(の明確化)を含まないのだから、〔D〕をいくら実行しても〔A〕を明確にすることにはならない。それでは、なぜ日弁連はこのように事実とズレる――あたかも〔D〕を実行しさえすれば〔A〕(の明確化)もが実現するかのような誤解を読者に与える――「説明」をあえて加えているのだろうか?

 結論を出す前に、一つ別の例を想像してみよう。仮に、ある人物があなたの財布を盗んで、有り金を使い果たしてしまった後で、こんなことを言ってきたとしたら、あなたはどう思うだろうか?

 「〔君の財布を盗んだことが〕犯罪であったこと〔A’〕,そしてそれが君にショックを与える行為であったこと〔B’〕を明確にする。ところで、このこと〔C’〕は,昨日のお詫びをあらためて再確認すること〔D’〕でもあるよね?」(注:「昨日のお詫び」というのは、「〔君の財布を盗んだことで〕君がショックを受けたことは本当に申し訳なく思っている」云々というもの。)

 どうだろう?「要するに肝心の犯罪行為はどうあっても認めないつもりかよ!(何だかんだ言って、結局は昨日の言い訳だけで済ませようって魂胆かよ!)」と思わないだろうか。私なら、まずそう思うが。

 ・・・・・・とまあ、まわりくどい書き方をしたが、「「提言の説明」は、当の「提言」内容(主に第1の1)を曖昧にする目的で、わざわざ付け加えられているようにすら見える」、と先に私が書いた理由については、これで理解していただけるのではないかと思う。日弁連がなぜこのような「説明」をあえて加えているのかも、まさにこの点に関わっている。「提言の説明」の「6 法の目的」を読めば嫌でも察しがつくように、日弁連が「この法律」として想定しているのは、第二の「国民基金」である「促進法」的な法案であると考えて、ほぼ間違いないからだ。


 6 法の目的
 この法律は,日本政府として事実を認め,すべての被害者に対し謝罪し,その名誉と尊厳を回復する措置を定め,実施するための手続を定めることを目的とする。そしてこの「慰安婦」問題の最終的な解決を図ることによって,日韓両国のみならず被害国と日本との間の真の友好関係を強め,人権の伸長と国際平和に貢献することを目的とする。


 「促進法」の詳細は以前の記事を参照していただきたいが、「・・・実施する」「ことを目的とする」のではなく、「・・・実施するための手続を定めることを目的とする」というところに、見まがうことなき「促進法」の特徴が顕著に伺える。

 細かい追及は次回に譲るが、「提言の説明」は「提言」を「促進法」(的な法案)へと無理やり収斂するための最初の布石のようなものである、と私は深刻に疑っている(もちろん、「提言の説明」のみで「提言」を「促進法」に一挙に落とし込むことはとてもできないし、「提言の説明」自体が既存の「促進法」の一部改変を促すものでもあるが)。そして、河野談話との連続性の強調(肯定)も、こうした文脈から(のみ)合理的に説明することができると思う。このシンポジウムおよび「提言(の説明)」の策定には、弁連協の弁護士が中心的な役割を果たしているのだが、日弁連も「促進法」を単に支持するだけでなく、大韓弁協とのつながりを利用して、戦後補償を求める韓国民衆の声を、日本政府・日本社会が河野談話を遵守することへの要求にすり替える――第二の「国民基金」に回収する――路線で、どうやらまとまってしまったということだろうか。そう考えると、シンポジウムのタイトルに被害者の「救済」という言葉が使われているのも、なかなか示唆的と言えるかもしれない。

 それにしても、「当時の国際法・国内法に違反する行為であったこと,そしてそれが女性の名誉と尊厳を深く傷つけた行為であったことを明確にする。このことは,河野内閣官房長官談話をあらためて再確認することでもある」という「説明」に、誰からも疑問が呈されていない(ように見える)のは、なんとも不思議なことである。日本の戦後補償関係者が沈黙しているのは、彼ら・彼女らの総意が「促進法」支持であることによるとしても、大韓弁協の人々がこうした「説明」を鵜呑みにするとは、正直考えにくい。この部分の朝鮮語版はいったいどうなっているのだろうか?まさか日韓条約のように異なる「解釈」があるのだろうか?それとも実は「提言の説明」は日本語版しかないのだろうか?

 
(次回に続く)

「慰安婦」立法と「国民基金」の連続性を問う (14)

■目次
(1) はじめに
(2) 第二の「国民基金」としての「促進法」
 (2-1) 「促進法」豆知識
 (2-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (2-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (2-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (2-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (2-6) より完璧な「国民基金」への道――(A) 被害国の世論の取り込み
 (2-7) より完璧な「国民基金」への道――(B) 保守・右派の取り込みと「国民基金」関係者との「和解」
 (2-8) より完璧な「国民基金」への道――(C) 戦後補償運動の日本国家への回収の完成
 (2-9) 結論
(3) 「要綱案」とは何か――他者からの呼びかけの無化
 (3-1) 「要綱案」前置き
 (3-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (3-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (3-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (3-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (3-6) アジアの他者を切断する「戦後補償」
 (3-7) 【資料1】戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見
 (3-8) 【資料2】「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書
 (3-9) 【資料3】第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ


(3-9) 【資料3】第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ

第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ

 昨1999年7月に「戦時性的強制被害者補償要綱」の第一次案を発表し、同時に韓国・中国・フィリピン・台湾・オランダの各国の被害者並びに日本を含めた支援者の皆さんにこれを送りました(▼87)。それぞれの立場から、この第一次案に対してご意見をいただきましたので、弁護団協議会では、これらの意見を基に第二次案を作成しました。韓国からは書面でご意見をいただきましたので、作成に当たっては、2000年1月15・16日弁護団から3名がソウルに参り、韓国の挺対協、遺族会並びに学者・弁護士とも討論しました。これらを基に作成しましたこの第二次案は、未だ異論のおありの点もあろうかとは思いますが、弁護団協議会としては要綱の最終案と致します。そこで、発表に先立って、被害者並びに支援者の皆さんにご覧いただき、本年4月27日に発表することに致します。各弁護団を通して送らせていただきますが、発表までにご賛同いただけますことをお願いし、その旨公表させていただければ幸いです。(▼88)

 第一次案と異なる点の中心は次の箇所です。

 第一次案では、被害回復を放置したことが日本国憲法の根幹的価値に関わる基本的人権を侵害するものであったとしておりますが、これだけでは「放置したこと」のみにとらわれ過ぎているとのご指摘がありましたので、二次案では性的行為を強制したこと自体が「当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であったこと」を謝罪・賠償の対象としました。(▼89)

 次に、第一次案でも、象徴的賠償の概念を基にしましたが、ならば端的に「補償」でなく「賠償」とすべしとのご意見がありましたので、「補償」を「賠償」とし、要綱案の名称も「戦時性的強制被害者賠償要綱」案としました。因みに下関判決も「慰安婦原告が被った損害を回復するための特別の賠償立法をなすべき日本国憲法上の義務」と述べています。(▼90)

 もう一つの点は、賠償すべき対象者を、第一次案では1993年8月4日の内閣官房長官の談話発表の時点の生存被害者とその遺族としておりましたところ、より対象者を広く認定すべきとのご意見がありましたので、これを1990年6月6日の生存被害者とその遺族としました。この時点は、日本の国会で本岡昭次参議院議員が政府に対し「慰安婦」問題の質問をした時です。日本政府が「慰安婦」の存在とその問題を認識した時点を賠償の対象時点とする考えは変わりませんが、この質問時点において、日本政府が認識を持つに至ったということが可能との考えになりました。(▼91)

 他に細かい改正点はありますが、基本的な考えとして改めたのは以上です。詳細は、各条項のコメントをご参照ください。

 弁護団協議会としましては、前述のとおりこれを最終案といたしますが、今後、この要綱をどのように実現に向けて活用していくか、改めてご支援の方々とも相談して決めたいと考えております。

 ところで、この度、日本の民主党から「戦時性的強制被害問題の解決の促進に関する法律(案)」が公表され、今次通常国会に提出されるとのことですので、この法律(案)と、本要綱第二次案との関係について一言付言いたします。この民主党の法律(案)は、戦時性的強制被害問題に対処すべき基本的事項を定めることにより、戦時性的強制被害に関わる問題の解決の促進を図ることを目的として、戦時性的強制被害問題解決促進会議(以下促進会議といいます)を設置することとしております。この法律(案)が戦時性的強制被害問題の解決の促進を図るものであることに鑑み、弁護団協議会としましても、立法化に対する関係議員のご努力に感謝しつつ、これに賛同し立法化に協力したいと考えております。同時に、この法律(案)は、基本的事項を定めることと、促進会議の設置の提唱に留まっておりますことから、今後この促進会議が具体的問題の解決を図る段階にいたったときには、私どもの提案致します本要綱案に示した解決の枠組みを、念頭においた解決方策とされるよう要望するものであります。以上が、民主党の法律(案)と本要綱との関係についての弁護団協議会の基本的考えです。(▼92)

 この要綱案が、戦時性的強制被害の問題解決のための礎となりますことを祈念して本要綱第二次案を送らせていただきます。(▼93)

2000年3月
「元『慰安婦』の補償立法を求める弁護団協議会」
座長 藍谷 邦雄


戦時性的強制被害者賠償要綱案

〔省略〕


要綱案に対する説明


1.目的
 この法律は、国が、第二次大戦の戦前戦中期において、旧日本軍の直接的間接的関与により女性に対し軍「慰安婦」等として性的行為を強制したことが当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であったこと、戦後その被害を放置し続けたことが、日本国憲法の根幹的価値に関わる基本的人権の侵害であったことを認め、これら女性個人(『戦時性的強制被害者』という)に対してこれを謝罪し、賠償することを目的とする。


コメント

① 賠償対象の期間
 本要綱では、「第二次大戦の戦前戦中期」としたが、具体的対象期間としては1931年から45年を想定している。ここでは、表現の方法として上記のようにしたが、法案では具体的期間を示す必要があると考える。(▼94)

② 対象者
 本要綱では、参加した弁護団の抱える依頼者が全て日本人以外(サンフランシスコ平和条約発効時に日本国籍を有しないとされた者)であることから、日本人以外を対象と想定しているが、日本人を含めるか否かは、別に運動上の問題として検討される必要があるであろう。対象者を日本人以外にする旨を法律の中に入れる必要があるか否かは更に検討する。(▼95)

「~たことが当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であったこと」との部分は、軍「慰安婦」としての性行為の強制が当時においても違法であったことを明確にするために第二次案において追加した。(▼96)

上記の文言および「日本国憲法の根幹的価値に関わる基本的人権の侵害」の文言は下関判決に依拠したものである。本要綱案は、同判決において立法の必要性として強調された論理を最大限生かしていくことを前提に検討された。そこで、同判決の論理の中心となっている言葉をここで使用することとした。なお、「日本国憲法の根幹的価値」との文言には、本件の賠償を通じて日本のあり方自体がただされるべきであるとの意味も込められている。(▼97)

目的には「侵害を認め」「謝罪」「賠償」の3要件を入れることとした。このことにより、この法律によって支給される一時金の性格が象徴的賠償の意味を有することを明らかにした。なお、第一次案においては「補償」との用語を用いていたが、軍「慰安婦」に関わる国家の行為が不法であることをより明からにするため、第二次案においては全て「賠償」と改めた。下関判決も国には「慰安婦原告らの被った損害を回復するための特別の賠償立法をなすべき日本国憲法上の義務」があると判示している。(▼98)

この目的の趣旨に副った国会決議等の方法で謝罪をなす必要があると考えられる。(▼99)



2.戦時性的強制被害者――定義
 戦時性的強制被害者とは、これに該当するものとして内閣総理大臣が各国または地域別に類型的に指定する受給要件を充たす者とする。


コメント

① 名称――「戦時性的強制被害者」とした意味について

 名称については、上記の他に「元日本軍『慰安婦』」「戦時性奴隷制被害者」とする案や「戦時性暴力被害者」とする意見があり、後者はかなり有力な意見でもあった。被害者を表現する言葉として何が相応しいかは、本要綱においては後に述べる対象者をどの範囲に想定するかに関わる問題である。どのような被害の態様を本要綱でいう賠償の対象とするかということである。

 そこで、被害の態様について、概略であるが誤解を恐れず分類してみれば次のように言うことができる。

・概略して被害の態様は
 a. 「慰安所」での被害――軍の直接又は間接的関与
 b. 組織的又は継続的な強姦
 c. 一時的な強姦
 の3類型が考えられる。この中、どの類型までを賠償の対象とするかで名称も異なってくる。これまでの検討結果では、下関判決を生かす立場からa.bの範囲とするのが妥当であると考えている。尚、、bを組織的又は継続的としたのは、組織的な場合には一過性のものも含む趣旨である。

・尚、先程の言葉に則していえば、「戦時性暴力被害者」の文言ではcを含み、「戦時性奴隷制被害者」等の文言ではaに限定して理解されるおそれがあり、「戦時性的強制被害者」が妥当ではないかとなった。(▼100)

② 対象地域

 対象地域を、法律事項(法律の条文に明文化すること)とするか、政令等の下位法令とするかは議論のあるところではあるが、ここでは内閣総理大臣の指定するものとした。対象地域によって被害の態様等種々の相違があり、解決の難易度も違いが生じることも考えられる。そこで、例えば地域毎の順次支給とする等の方法も可能とするため、運用による弾力性をもたせるためのものである。(▼101)



3.賠償
 国は、戦時性的強制被害者の中、1990年6月6日の生存者またはその遺族に対し、この法律に基づき、一時金として戦時性的強制被害者一人当たり金〔〇〇〇万〕を支給する。


コメント

① 賠償の法的根拠――創設的規定 or 損害賠償義務の確認規定か?

※最も議論のあるところ。創設的規定とは、この法律に基づいて新たに賠償を求める権利が発生することを定めるもの。損害賠償義務の確認規定とは、既に賠償を求める法的権利があるが、特に戦時性的強制被害については特別法として賠償義務の確認をし賠償の方法等を定めるものをいう。

 損害賠償義務の確認とした場合には、従来の法体系の中で損害賠償請求権が存在することが前提となるが、法的根拠については裁判でも種々の主張をしているとはいえ、確定的な法的権利として確立していない現状がある。下関判決でも、立法不作為による損害を認めたものの、性的強制被害自体の損害については立法的解決を促すものとなっている。加えて損害賠償義務の確認とした場合には賠償金額の立証を要し、且つ金額も区々となるであろう。この場合には、立証の困難さがあることと伴に定額の一時金とはし難いものとなる。又、下関判決に副って放置し続けたことの責任を問うのは新たな権利とした方がよいのではないか。その他、平和条約で解決済との主張に対しては、創設的規定ならば、仮に解決済であっても新たに賠償することに憲法上の違反が無い以上法的には問題ない。つまり法的にクリアーできうる。等々の考えがある。

 以上の議論の下、
・ここでは創設的規定との考えに基づいたものとした。
 注:「この法律に基づき」との文言が、それを意味する。
・且つ、定額による象徴的賠償との考えを基にした。
 注:1.目的 の項で、賠償金の性格を「法的責任を認め、謝罪し、賠償する」との言葉で、支給する賠償金の意味づけをしたことによって、象徴的賠償の性格をもたせた。(▼102)

② 創設的規定とした場合の権利と従来の損害賠償請求権との関係

 この法律によって定められる権利は、あくまでも新しい法律上の権利であって、従来の損害賠償請求権とは別のものであり、それに影響を及ぼさず、損害賠償請求の裁判等は引き続き行いうる。但し、後に述べる損益相殺はありうる。(▼103)

③ 賠償金の性格――一時金か年金か?

 年金とする方が、現実の被害回復には適するのではないかとの考えもあるが、本要綱の趣旨は、金銭賠償による象徴的賠償の意味をこめて考えれば、一時金が適するのではないかとの考えから、ここでは一時金とした。

④ 賠償金の額――今後の議論に委ねる

 ここでは象徴的賠償との考えで一時金としての額を考える。金額は案としては提起しない。各位の意見を集めた上で確定することとした。

 金額は後の放棄条項との関係での考慮もあるが、本要綱では放棄条項は必要ないとの考えである。

 注:放棄条項とは、この法律に基づく支給によって、今後損害賠償の請求はしないことの確定をすること。受給した場合訴訟は取下げとなり、新たな訴えもできない。

 類似法の例としては、USAの対日本人強制収容の賠償法に放棄条項があるが、これは大量訴訟による和解により取下げがなされたことが先行的にあったことによる。日本の法律では放棄条項の例は殆どない。

 但し、放棄条項がなくとも、損害賠償を求めた場合に受給の範囲で請求が充たされていると見なされる損益相殺の対象とはなりうる。(▼103)

⑤ 対象者

 同種の立法例では立法時の生存者のみを対象とするのが通常であるが、ここでは自ら元「慰安婦」であることを名乗り出ながら立法までに死去した被害者を賠償の対象に含めることを意図して「1990年6月6日時点での生存者またはその遺族」を対象と規定した。右の基準日は軍「慰安婦」問題が日本の国会で取り上げられた日であり、下関判決でも、そのころには被害者への放置が「違憲的違法性を帯びるようになった」と指摘されている。第一次案では内閣官房内閣外政審議室調査報告書公表の日を基準としたが、賠償の範囲をより拡大するために第二次案では前記の基準日に変更した。

 なお、前記の基準日以前に死去した被害者についてはメモリアルの設置などにより償いが行われるべきであるが、本要綱は当面の課題である謝罪と個人賠償を規定し、その余は今後の課題とした。(▼104)



4.戦時性的強制被害者賠償委員会
 内閣総理大臣は、賠償金の受給要件の認定手続及び支給方法の確定並びに賠償金支給の実施のために、独立の戦時性的強制被害者賠償委員会を設立する。


コメント

① 所管

 行政としてどの省庁の所管とするかの問題である。これまでの経緯からは厚生省、外務省等が考えられるが、ここでは、内閣とした。(▼105)

② 委員会の性格

 ここでは、委員会を独立行政委員会とする。独立行政委員会とは、内閣の統制下にあるが、上級の指揮監督機関から独立してその権限の行使が認められるものである。独立行政委員会は委員会規則を制定しうるメリットがあり、実態を独立性のあるものとすることが可能である。委員会が内閣の恣意により運営されるのではなく、被害者や被害者の支援団体の意思を反映して運営されることを明確にするため、第二次案では「独立の」という確認的な文言を追加した。(▼106)

③ 認定機関

 賠償委員会を設置し、そこが認定する。

 その場合には、委員の任命者、委員の構成、委員会の権限等の定めにおいて独立行政委員会の性格を維持することが重要である。(▼106)

④ 不服申立手続

 委員会の受給決定(棄却の場合)に不服の場合は、その決定の取消を求める手続が必要であろう。行政委員会とすれば、行政処分としての性格を有することとなり、上級庁に不服を申し立てる行政不服手続を経た上、処分の取消を求めて訴訟を行う行政訴訟手続きによることとなる。(▼106)

⑤ 実施機関

 支給の認定がなされた後、支給を実施する機関として賠償委員会を実施機関とした。実際の支給に当っては、各地域の実情を考慮して実施すべきである。(▼106)

⑥ 行政委員会規則か法律事項か

 申請権者、申請手続等を法律事項とするか行政委員会規則とする。考慮の余地ある問題であるが、ある程度の要件は法律事項とするのが望ましい。その場合の要件として必要なものは以下のような事項がある。

・個人からの申請を要件とするか、或いは委員会の職権探知とするか、議論のあるところだが、前者とすべき。個人の意思は常に尊重すべきだからである。
・その場合でもNGOの代理を可能なものとする必要がある。
・公知の被害者には職権も可とすべき場合もあるが、政府に周知する義務を負わせ一般的な職権探知は不可とすべきである。(▼107)



5.事業の実施と広報義務
 国は、この法律に基づく賠償金の支給事業を5年以内に完遂できるよう努め、そのための広報活動をしなければならない。


コメント

① 法的な考え

 ここでの考えは、事業の完遂を5年以内に行うことを目標とすることを規定するものである。では5年以内に支給決定の出なかった者についてはどうするかが問題となる。5年の期限を切ってそれまでに支給の申請をしなかった者には打ち切りとする考えもある。これを時限法という。しかし、本要綱では時限法の考えは採らない。何故なら地域、人によって5年で完遂できるか難しい場合があること、前述の順次支給の考えもあること等による。

注:時限法とは?
・期限を切って請求を遮断すること。USA日本人への賠償は時限法
・時限法とした場合は、積極的に国が申請を促すか或いは職権により探知する等が必要となる。USAの場合は国が積極的に探知した。

② 広報義務

 本要綱では、時限法とはしないが、国に積極的に申請を促す努力をするべき義務を負わせた。これを広報義務として規定した。(▼108)


▼87 送付先が「韓国・中国・フィリピン・台湾・オランダ」の五カ国に限られているのは、「元『慰安婦』の補償立法を求める弁護団協議会」の参加弁護団がこれらの国の被害者を原告とする裁判を担当しているからである(【資料4】)。第一に、自分たちと「関係」ない被害国・被害者の意見にはそもそも関心さえ示さず(インドネシアでは被害者の「実数を把握できない」のだから「記念碑などで代替」するべきなどというナメた発言もここから来ていると思う。北朝鮮にいたっては言及すらされていない)、第二に、自分たちと「関係」する被害国・被害者の意見はそれが本質的なものであるほど身勝手に切断していくのだから、「要綱案」を「各国の被害者」に送る行為そのものが他者への応答可能性をあらかじめ裏切っている。

▼88 この書簡は「国民基金」が婦援会に宛てた最後通牒を私に思い起こさせる。以下に引用しておこう。

 「一九九七年三月二一日
台北市婦女救援社会福利事業基金会
 理事長 沈 美真 先生

 謹啓

 皆様におかれましては益々ご清祥のことと、お慶び申し上げます。

 私たちアジア女性基金は、台湾における貴会の慰安婦問題への取り組みに敬意を表し、基金事業についての貴会のご理解とご協力を賜りたいと、面談をお願いし続けてまいりました。残念ながら私たちの要望は、一九九六年一月以降、一度も受け入れられず今日に至っております。最近では一九九七年二月一八日付けで書簡を差し上げましたが、いまだにお返事を頂戴しておりません。

 アジア女性基金は一九九五年八月一五日以来、日本国民がまごころから寄せた償いの気持ち(償い金)をお預かりしており、これを被害者へお届けする義務があります。台湾においてアジア女性基金はいまだに事業を開始できずにおりますが、ここ数カ月の間にも、既に三名の台湾の被害者が亡くなられたと聞いており、これ以上今の状態を続けて時を費やすことはできないと考えております。私たちが最も望むことは、貴会のご理解を得て貴会に台湾における事業の受け皿団体となっていただき、一日も早く被害者の方々に対する償い金支給と医療・福祉支援事業を開始させることです。

 改めてこの書簡をもって、貴会がアジア女性基金の事業実施にご協力いただけるか否かをお尋ねしたいと存じます。この質問への回答は一九九七年三月三一日までに頂戴したく、この日までにご回答なき場合は、貴会のご協力は得られないと判断し、アジア女性基金は独自の方策をもって事業開始の準備に着手いたします。

 この件につき、よろしくおとりはからいのほどお願い申し上げます。

 皆様のご健康とご発展をお祈りいたします。

 敬具

(財)女性のためのアジア平和国民基金
 理事長 原 文兵衛」(鈴木裕子、『戦争責任とジェンダー――「自由主義史観」と日本軍「慰安婦」問題』、未来社、1997年、pp.223-224)

▼89 「「放置したこと」のみにとらわれ過ぎているとのご指摘」とは、なかなか笑える解釈である。挺対協や金昌禄氏が批判しているのは、「要綱案」が日本軍「慰安婦」のもともとの犯罪行為から日本政府を免責すること「のみにとらわれ過ぎている」ことである。もちろん、これは「性的行為を強制したこと自体が「当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であったこと」を謝罪・賠償の対象とし」た第二次案でも忠実に継承されている。

▼90 この文言の変更が単なる小細工であることは注68を参照。なお、「象徴的賠償の概念」については第5章で批判的に考察する。

▼91 「より対象者を広く認定すべきとのご意見」という表現も笑止だろう。これは、自分たちをすべて人間として扱えという外国人の要求に対して、両親のいずれかが日本人であれば「人間」として「広く認定す」る「ということが可能との考えになりました」と応じるのと同じくらいどうかしていると思う。注72で述べたように、この程度の「改正」が「第一次案と異なる点の中心」になっていること自体が、「要綱案」の欺瞞を饒舌に物語っている。

▼92 「一言」のはずの「付言」がやたらと長いのは、「改正点」の中身がないことに加えて、挺対協や婦援会らの「賛同」を取りつけるためである(本章第6節)。

▼93 そもそも「促進法」の名称が「戦時性的強制被害問題の解決の促進に関する法律案」であること自体が問題だと思うのだが、どうやら「慰安婦」立法推進派は、日本軍「慰安婦」問題ではなく、日本軍「慰安婦」被害者の「問題」を解決することを目的としているようである。とすれば、彼ら・彼女らにとっては、被害者が全員亡くなってしまえば「問題」は「解決」することになるのではないだろうか。「戦後補償」運動が恐ろしいことにナチスの「最終解決」のような話になっている。

▼94 1931年は日本軍による中国侵略が本格化した(いわゆる「満州事変」の)年であるが、日本政府による「慰安婦」問題の第二次調査報告(「いわゆる従軍慰安婦問題について」)は、「慰安所が設置された時期」について「昭和7年〔注:1932年〕にいわゆる上海事変が勃発したころ同地の駐屯部隊のため慰安所が設置された旨の資料があり、そのころから終戦まで慰安所が存在していたものとみられる」としている。要するに、日本政府の公式見解とのすり合わせをより容易にするために、「要綱案」では「第二次大戦の戦前戦中期」という無難な表現を用いているのだと思われる(もちろん、こうした配慮自体がすり合わせの一環である)。

▼95 弁連協は対象を日本人以外とするよう主張しているので、このコメントは日本の運動団体や関係者に配慮した結果であると思われる。実際、この点は女性国際戦犯法廷以前から日韓の女性団体間の懸案事項となっているらしく、私も関係者から「韓国側は日本人「慰安婦」を「売春婦」呼ばわりして差別している」という主張――単純に言えば、(韓国の)朝鮮人のジェンダー観が日本人のそれよりも保守的であることが日本軍「慰安婦」問題の真の解決を阻害しているという言説――を聞いたことがある。このあたりは不勉強なので現時点では踏み込まないが、「帝国のフェミニズム」と合わせて考える必要があると思う。

▼96 「軍「慰安婦」としての性行為の強制が当時においても違法であったことを明確にするため」なら、なぜそれをそのまま明文化しないのか。弁連協による<内>と<外>での主張の使い分けの典型例だろう。

▼97 「日本のあり方自体がただされるべきであるとの意味」がただ「込められている」らしいだけでどこにも痕跡が伺えないところがポイントである。要は、「国民基金」と同じで、日本人個々人の「善意」(内面)が重要だという例のシラけた話に行き着くのだろう。「要綱案」が下関判決の「論理を最大限生かしてい」るとも考えられないが(本章第2節および第3節)、他者の呼びかけに対する応答可能性であるはずの戦争責任・戦後責任が、いつの間にか(他者の呼びかけを根本では黙殺した)下関判決に対する応答可能性にすり替わっているところが、そもそもの間違いであると思う。

▼98 「軍「慰安婦」に関わる国家の行為が不法であることをより明からにするため」などと言いながら、違法性については絶対に明文化しようとしないのだから、人をバカにするにも程がある。「この法律によって支給される一時金の性格」はやはり単なる「見舞金」でしかない。

▼99 「謝罪」は国会にアウトソーシングするらしい。ちなみに、弁連協は「元『慰安婦』の方々の被害を回復する措置としては、賠償金の支払い、原状回復、公式謝罪、医療費・生活福祉費等の支給、教育普及活動等々があります。要綱案は、この内、補償金の支払いを中心とし、且つ一時金として支払う方式を採用しました。つまり、被害回復措置の中での一つの措置について提案するものであって、その他の被害回復措置を排除する趣旨ではないことを特に強調しておきます」(【資料4】)とも述べている。様々な被害回復措置の中から「補償金の支払い」を(有効な)「一つの措置」として任意に切り離せるという発想は、「国民基金」の論理そのものと言えるだろう。法的責任に結びつかない「道義的立場」それ自体が「非道徳的立場」であると指摘した、ウスティニア・ドルゴボル氏の言葉を引いておこう。

 「*去る七月二~四日、東京の国際連合大学で開催された「ICJ国際セミナー」でドルゴボル氏は、「『道義的責務』の不道徳性について」のレポートをおこなった。そのなかで彼女は、「国民基金」案に触れて、「私〔ドルゴボル氏〕の意見では〔日本〕政府の立場は、義務は法よりも“道徳”であるという立場であり、これ自体が人種差別、性差別に根ざす行為であり、それに同意するのは不道徳的立場である」と指摘した。前記、ICJ国際セミナーの「最終声明」でも上記の指摘が確認され次のようにうたわれている。「七、参加者は、日本政府の責任は法的なものではなく道義的なものであるという政府の主張について、それはレイシズム(人種差別)およびセクシズム(性差別)に基づく行動と通念によるものであるゆえに、それ自体非道徳的立場であると考える。」(鈴木裕子、『戦争責任とジェンダー――「自由主義史観」と日本軍「慰安婦」問題』、未来社、1997年、pp.139-140)

▼100 前節の金昌禄氏の批判(2-2-2)を参照。

▼101 本章第4節および前節(2-2-3)を参照。

▼102 本章第2節第3節および前節(2-3-1)を参照。

▼103 本章第2節第3節および前節(2-3-2)を参照。ここでいう「損益相殺」とやらは、「促進法」推進派のいう「不当利得」という差別的な概念と完全に対応している(第2章第3節)

▼104 本章第3節および前節(2-3-3)を参照。

▼105 内閣官房国家戦略室(局)が目下の最有力候補である(本章第6節)。国家戦略とは要するに「国策」のことではないかと思うのだが、関係者が民主党政権の「国策」に対して抱いている期待については下記などが大いに参考になる。

 関釜裁判ニュース第56号:「鳩山政権の下で「慰安婦」問題の立法解決を」
 http://www.kanpusaiban.net/kanpu_news/no-56/01.htm

▼106 本章第4節および第7節(第四条)を参照。

▼107 同上。そもそも申請主義と委員会の職権探知が二者択一になっていることがおかしいだろう。日本政府の責任を解除するために当事者の「自己決定権」を持ち出す論法も「国民基金」そのままである。

▼108 「順次支給の考えもある」ために「時限法の考えは採らない」というのは、つまり予算不足などの日本側の事情によって「支給」を先延ばしできるということである。また、委員会の職権探知を行わない以上、「地域、人によって5年で完遂できるか難しい」かどうかさえよくわからないのが実情ではないか。「政治的重要性」の低い国に対する「広報活動」がおざなりになり、かつ中途半端に打ち切られるだろうことは、簡単に予測がつく。もっとも、「慰安婦」立法が主要な「ターゲット」としている韓国の場合も、大規模な天皇訪韓反対デモが起こるなどの「反日」ぶりが高まれば、「広報活動」にも影響を及ぼすことになるだろう。北朝鮮に対しては、より露骨な「国益」論が振りかざされるであろうことは言うまでもない。

「慰安婦」立法と「国民基金」の連続性を問う (13)

■目次
(1) はじめに
(2) 第二の「国民基金」としての「促進法」
 (2-1) 「促進法」豆知識
 (2-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (2-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (2-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (2-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (2-6) より完璧な「国民基金」への道――(A) 被害国の世論の取り込み
 (2-7) より完璧な「国民基金」への道――(B) 保守・右派の取り込みと「国民基金」関係者との「和解」
 (2-8) より完璧な「国民基金」への道――(C) 戦後補償運動の日本国家への回収の完成
 (2-9) 結論
(3) 「要綱案」とは何か――他者からの呼びかけの無化
 (3-1) 「要綱案」前置き
 (3-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (3-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (3-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (3-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (3-6) アジアの他者を切断する「戦後補償」
 (3-7) 【資料1】戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見
 (3-8) 【資料2】「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書
 (3-9) 【資料3】第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ


(3-8) 【資料2】「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書

「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書

1.

 これまで、日本軍「慰安婦」被害者たちの被害回復を求める訴訟を担当してきており、また今回はその被害の回復の為の活動の一環として「要綱案」を作成するなど、多くの困難の中でも文字どおり「崇高な努力」を尽くしておる「元<慰安婦>の補償立法を求める弁護団協議会」のみなさんに心から敬意を表します。

 私は、日本軍「慰安婦」問題に対して関心を持ってきた研究者として、「要綱案」が、下関判決と同じように、どうしても日本軍「慰安婦」被害者たちの苦痛を解消してあげなくてはならないという崇高な熱情の産物であり、またその完全な解消が容易ではないという現実に対する深刻な苦悩の産物でもあるという事実を、ある程度は理解できる、と敢えて申します。

 しかし、同時に「要綱案」は、日本軍「慰安婦」問題という実に深刻な人権侵害の問題を解決する方法としては多くの限界や問題点を持っているものである、と思います。それから、この点は「弁護団協議会」のみなさんがだれよりよく理解しておると推測します。したがって、たぶん苛酷なものとして受け入れられるだろうと思いながらも、敢えて批判的な意見を下に書いてみることにします。敢えて、付け加える必要もないかと思いますが、下の私の意見はもっぱら日本軍「慰安婦」問題の完全な解決という目的のためのものです。その点に対する「弁護団協議会」のみなさんのご理解を求めると同時に、私の意見が日本軍「慰安婦」被害者たちの苦痛を解消しようとするみなさんの努力に少しでも資するところがありうることを心から期待します。


2.

2-1 「1.目的」に対して

2-1-1 「補償」に対して

 「1.目的」の中の「補償」という用語は、「賠償」にするべきだと思います。金銭の支給が、「基本的人権の侵害」という不法行為に対するものである以上、その意味を明確に表現する「賠償」という用語を使用するべきだからです。

 同じ理由で、「要綱案」の名称の中の「補償」もまた「賠償」にするべきだと思います。(▼77)

2-1-2 「対象者」に対して

 「対象者を日本人以外にすると、“国際法に違反する”という事実を認定する内容にした方が適合であるとも考えられるが、立法の過程においての国内的な説得には上のような文句が理解しやすい」という部分は理解し難いです。(▼78)

 「国際法に違反する」ということこそ、日本軍「慰安婦」問題の核心であり、その解決の為の努力の出発点にならなくてはなりません。それなのに、その点を除いて「国内的な説得」をするということは、果して何のためなのかを問わざるを得ません。もしかして、「一日も早く立法を可能にするために論争の余地がある部分は言及しなかった方がいい」という意味なら、今度はそういう方式で接近して立法という目的を達成するとしても、果して何が解決されるのかと問わざるを得ません。それは、日本軍「慰安婦」問題の真の解決策にならないだけでなく、むしろ問題をもっと複雑にする可能性さえあると言わざるを得ません。

 一方、考えてみれば、「国内的な説得」の為にこそ「国際法に違反する」という点を明記することが必要だと言えます。もし、「国際法に違反」したことでないなら、もっぱら日本国憲法違反ということだけが問題になるが、そうなれば、「戦後その被害を継続・放置したこと」に対しては問題がないかもしれないが、「軍“慰安婦”等として性的行為を強制」した行為の場合は、それが日本国憲法施行以前の問題であるにもかかわらず、なぜ「認定」し、「謝罪」し、「補償」しなければならないのかという疑問を呼び起こさざるを得なくなります。

 実は、この問題は「要綱案」の根本的な問題と関連があると思います。それは、「要綱案」は果して何に対して「認定」し、「謝罪」し、「補償」するよう求めているのかという問題です。「性的行為を強制し戦後その被害を継続・放置したこと」という表現を見ると、性的行為を強制した元々の侵害行為と、それに伴う被害を放置したもう一つの侵害行為の両者に対して求めているように見えます。しかし、「要綱案」は下関判決と同じように、国際法違反は度外視したまま「日本国憲法の根幹的価値にかかわる基本的人権の侵害」だけを問題視しています。ところで、下関判決は元々の侵害行為に対する責任は認めていません。

 だとすると、「性的行為を強制し戦後その被害を継続・放置したこと」という表現は、間違ったものかそれとも半分の実態しかないにもかかわらず完全な実態を持っているように見せかけるものではないかという疑問を払拭できないわけであります。(▼79)

2-2 「2.戦時性的強制被害者―定義」に対して

2-2-1 内閣総理大臣が受給の要件を指定するようになっていることに対して

 この点は「4.戦時性的強制被害者補償委員会」を内閣総理大臣が設立するようになっていることとともに問題であると思います。事案の性格上、日本の「国権の最高機関」である国会が独立した機構を設置し、またその機構が受給の要件の指定等賠償に関する一切の業務を担当するようにするべきであると思います。

 それから、その独立した機構には被害者あるいは被害者を代弁する市民団体の代表がどんな形であれ参与できるようにするべきで、また、参与する市民団体には日本の市民団体は勿論、被害者の所属国の市民団体も含められるべきだと思います。(▼80)

2-2-2 「名称」に対して

 「名称」に関するコメントの中の「戦時性奴隷制被害者」と「戦時性暴力被害者」という名称が狭すぎるか広すぎるという指摘には共感します。しかし、「戦時性的強制被害者」という表現が適切であるかは依然として疑問です。

 特に問題なのは「戦時」という表現です。「戦時」は、「戦争中」という意味、つまり「戦争が始まってから終わるまで」という意味を持ちます。そうであれば、「戦時」という表現は「1.目的」の「第2次大戦の戦前、戦中期において」という表現と符合しないものではないのでしょうか。

 私としては、コメントでは提示されているだけで不適切であると判断される理由に対しては充分な説明がなされていない、「元日本軍<慰安婦>」という表現の方がもっといいのではないかと思います。「日本軍<慰安婦>被害者」としてもいいでしょう。その方が「1.目的」の「第2次大戦の戦前、戦中期において」という表現や「旧日本軍の直接的間接的関与」という表現とも符合するものだと思います。また、「日本軍「慰安婦」」という表現が、加害の主体を明確にするという長点のため最近学者のなかで定着されつつあるという事情とも符合するものだと思います。(▼81)

2-2-3. 「対象地域」に対して

 対象地域を内閣総理大臣が指定するようになっていることも、上の2-2-1で指摘したことと同じ問題があるから、独立した機構が指定するようにするべきだと思います。

 また、「地域による順次支給」は、「対象地域によって被害様態等各種の差があり、解決の難易度に差異がありうる」という点を考慮した結果であると理解されますが、これと関連しては警戒すべき点があると思います。それは、「女性の為のアジア平和国民基金」が、問題の本質はよそにおいたまま、何が何であれいわゆる「慰労金」を渡せばいいという間違った発想から、経済的事情が劣悪な国家の被害者たちにまず「慰労金」を受給させ、その余勢を駆ってその他の諸国家の被害者たちにも「慰労金」を受給させる方式を取ったことが、かえって被害者の猛烈な反発を買った点です。「地域による順次支給」は、同じような問題を惹起すると思われますし、したがってすべての被害者たちに対して一括的な基準によって賠償をするようにすることが望ましいと思われます。(▼80)

2-3 「補償」に対して

2-3-1 「補償の法的根拠」に対して

 「要綱案」に言及されているように、この問題こそ「要綱案」自体の意義を完全に喪失させてしまうことのできる、一番核心的な問題です。

 結論から話せば、この部分に対する「要綱案」の態度は、日本軍「慰安婦」問題の本質に対する充分な考慮を欠如した、深刻な問題性を持つものであると言わざるを得ません。

 損害賠償義務の確認にしがたい理由として提示された、「確定的な法的権利として確立されていない現実」や「賠償金額の立証が必要になり金額も各々異なるようになるだろう」という部分は説得力がありません。国会の立法や独立した機構の設置は、まさにそのような現実と問題に対応するため必要なものであるはずです。

 「下関判決においても立法不作為による損害を認定はしたが、性的強制被害自体の損害に対しては立法的解決を促求することになっている」という理由も説得力がありません。まさにその点こそ下関判決の限界であり、立法的解決が必要なのはまさにその限界を乗り越えるためであります。それにもかかわらず、限界のある下関判決を理由に立法に限界を設定することは本末転倒と言わざるを得ません。それであれば、なぜ立法が必要なのかという疑問が提起されざるを得ないわけです。(▼82)

 「また、下関判決によって継続・放置した責任を問題にすれば、新しい権利にした方がいいだろう」という部分は、特に理解しがたいのです。

 まず、下関判決が「継続・放置した責任」を問うたのは、明確に「すでに存在する損害賠償義務を確認」したものに他なりません。したがって、その「責任を問題にすれば、新しい権利にした方がいいだろう」とは決して言えないわけです。

 それだけでなく、より重要なものは「継続・放置した責任」」ではなく「性的強制被害自体」です。「性的強制被害自体」が不法行為によるものであり、したがって賠償等の措置が取られなければならないということが核心です。その点を曖昧にする場合、「それでは、いったいなぜ補償をしなければならないのか」という疑問が日本人の中から浮かび上がることを防ぐことはできないでしょう。

 「平和条約によって解決したという主張」を回避するためという理由も理解し難いのです。そのため創設的規定にしなければならないということは、つまり「平和条約によって解決したという主張」を受け入れることになります。ここでも、「それでは、いったいなぜ補償をしなければならないのか」という疑問が生ぜざるを得ないわけです。(▼78)

2-3-2 「創設的規定にした場合の権利と従来の損害賠償請求権との関係」に対して

 もし、「この法律によって定められる権利」が「1.目的」の「旧日本軍の直接的・間接的な関与によって女性に対して軍“慰安婦”等として性的行為を強制し戦後もその被害を継続・放置したこと」に対する「補償」を要求する権利として与えられるものなら、また「補償」がその権利に相応するものなら、被害者たちがあえて「損害賠償請求裁判を継続」すべき理由がどこにあるのでしょうか。

 ここで、果たして「要綱案」が想定する「権利」はいったい何に基づいているのであり、何に対する権利なのかを深刻に問わざるを得ません。それは、「旧日本軍の直接的・間接的な関与によって女性に対して軍“慰安婦”等として性的行為を強制し戦後その被害を継続・放置したこと」に対して「補償」を要求する権利ですか。もしそうであれば、損害賠償請求裁判をすべき理由はないでしょう。ひょっとして、それは、「旧日本軍の直接的・間接的な関与によって女性に対して軍“慰安婦”等として性的行為を強制し戦後その被害を継続・放置したこと」に対して「補償」を要求する権利ではないのではありませんか。もしそうであれば、「要綱案」自体が深刻な論理的破綻に陥ると言わざるを得ないでしょう。(▼83)

2-3-3 「対象者」に対して

 「公表時の生存者及びその後死亡した者の遺族」に限定するということは、公表時にすでに死亡した被害者たちは対象から除外されるという意味ですか。彼女らを除外した法律が日本軍「慰安婦」の問題の解決に果たしてどういうふうに資することができるのでしょうか。

 「継続・放置した事実が違法という思考方式に基づいて」となっていることは、結局「要綱案」が想定する責任とそれに対応する権利が「放置」に対するものであると証明することではないのでしょうか。つまり、元々の侵害行為自体は実質的に問題にしないことではないのでしょうか。(▼84)


3.

 日本軍「慰安婦」問題の本質は、日本軍「慰安婦」を強要した行為が国際法違反の犯罪行為であり、したがってそれに対して処罰と賠償等の措置が取られなければならないということです。

 下関判決は、立法不作為責任を認める形で日本国の一定の責任を認めたという点で確かに進展ではあるが、上のような問題の本質を正面から認められなかった点では依然として限界を内包しているものであると言わざるをえません。(これに関しては、金昌禄、「『下関判決』――韓日間の過去清算問題の新しい局面」、『情況』1999年7月号、90-108頁参照。)

 その限界を克服し、問題の本質を徹底的に糾明し、それに対して適切な措置を取ることこそ、日本国の「国権の最高機関」である国会がなすべきことです。

 ところが、「要綱案」は、下関判決を前提とし、その結果判決の限界をそのまま包含しているものと判断されます。それは、賠償は勿論、責任者の即刻的な処罰まで要求した「マックドゥガル報告書」と実に大きく掛け離れているものと言わざるを得ません。

 問題の核心は、日本軍「慰安婦」を強要した元々の侵害行為に対する明確な法的評価を回避していることであると判断されます。したがって、この「要綱案」に沿って法律が制定される場合、その法律は日本軍「慰安婦」問題に対する日本の曖昧性をもう一度確認させるものになるしかないと思われます。今、世界が日本に対して求めていることは、日本軍「慰安婦」問題に対して確実な態度を見せてくれることです。日本の曖昧性こそ、これまでこの問題が解決できなかった根本的な理由です。そういう状況のなかで、またもや法律という形で曖昧性を追加するなら、それは実に不幸なことであると言わざるを得ません。それは、「元“慰安婦”の被害回復の為の立法的解決案を模索」するという「弁護団協議会」のみなさんの目的を達成できないものであるだけでなく、かえって日本に対する被害者たちの失望や憤怒をますます深刻にするものになるでしょう。(▼85)

 もちろん、「現実」を無視することはできません。しかし、高齢で疲れた身を持って海を渡りながら、恨にまみれた絶叫を吐きつづけているハルモニたち、時には命さえ犠牲にしながら正義を求めているハルモニたちによって、他ならないその「現実」がこれだけでも変わったこともまた事実です。そういうハルモニたちに、今になって「現実」を受け入れなさいと要求することは実に苛酷なことです。それは、決して「人間相互の関係を支配する崇高な理想」を持っている国、それによって「国際社会において、名誉ある地位」を占めようとしている国がしてはならないことでしょう。

 私の意見を参照してくださるようお願いします。もし、私がみなさんのお考えを誤解した部分がありましたら、あるいは私の意見に問題がありましたら、教えていただけるようお願いします。(▼86)


1999.10.5.
釜山大学校法科大学助教授
金昌禄


▼77 「要綱案」にはほとんど反映されていない(注68)。また、「要綱案」は「基本的人権の侵害」についてもそれが「不法行為」であるとは認めていない(本章第2節)。

▼78 「要綱案」には反映されていない(本章第2節および第3節)。「要綱案」はサンフランシスコ条約や二国間協定などで「慰安婦」問題は「解決済み」とする日本政府の公式見解(を国民が受け入れていること)を所与の前提としている。つまり、すでに「解決済み」の問題を「解決」するための法案が「要綱案」(であり「促進法」)であるというわけだ。こうした「慰安婦」立法運動が加害者側の醜悪な自己欺瞞に帰着するのはあまりにも当然のことだろう。以下に弁連協のコメントを引用する。

 「①賠償の法的根拠――創設的規定 or 損害賠償義務の確認規定か?

 〔前略〕平和条約で解決済との主張に対しては、創設的規定ならば、仮に解決済であっても新たに賠償することに憲法上の違反が無い以上法的には問題ない。つまり法的にクリアーできうる。等々の考えがある。」

 「慰安婦」立法推進派は、日本軍「慰安婦」問題(性奴隷制)の違法性を主張して日本政府に法的責任の履行を要求するのではなく、自らが推進する「慰安婦」立法が憲法違反でも条約違反でもないとして政府や保守・右派を説得しようとする、極めて倒錯的な構図に自ら進んで嵌り込んでいる。

▼79 私は「要綱案」の実態は金昌禄氏の疑問以上にひどいと思う。「要綱案」は下関判決が認定している日本国憲法違反についても明文化を避けているのだから、「半分の実体しかない」どころか何の「実体も」「ないにもかかわらず完全な実体を持っているように見せかけるもの」であると言えるのではないか(本章第2節)。

▼80 「要綱案」には反映されていない(本章第4節)。

▼81 「要綱案」には反映されていない(本章第4節)。ちなみに弁連協のコメントは次の通りである。

 「①名称――「戦時性的強制被害者」とした意味について

 名称については、上記の他に「元日本軍『慰安婦』」「戦時性奴隷制被害者」とする案や「戦時性暴力被害者」とする意見があり、後者はかなり有力な意見でもあった。被害者を表現する言葉として何が相応しいかは、本要綱においては後に述べる対象者をどの範囲に想定するかに関わる問題である。どのような被害の態様を本要綱でいう賠償の対象とするかということである。

 そこで、被害の態様について、概略であるが誤解を恐れず分類してみれば次のように言うことができる。

・概略して被害の態様は
 a. 「慰安所」での被害――軍の直接又は間接的関与
 b. 組織的又は継続的な強姦
 c. 一時的な強姦
 の3類型が考えられる。この中、どの類型までを賠償の対象とするかで名称も異なってくる。これまでの検討結果では、下関判決を生かす立場からa.bの範囲とするのが妥当であると考えている。尚、、bを組織的又は継続的としたのは、組織的な場合には一過性のものも含む趣旨である。

・尚、先程の言葉に則していえば、「戦時性暴力被害者」の文言ではcを含み、「戦時性奴隷制被害者」等の文言ではaに限定して理解されるおそれがあり、「戦時性的強制被害者」が妥当ではないかとなった。」

 この問題は本稿では取り上げなかったが、名称を日本軍「慰安婦」(被害者)としなかったのは、より多くの被害者を「賠償の対象とする」ためである、という弁連協の一見もっともらしい説明は、(これまでの検討を踏まえれば)真に受けない方がよいと思う。思うに、第二の「国民基金」としての「要綱案」が、日本軍「慰安婦」(被害者)という表現をあえて避け、「戦時性的強制被害者」というより抽象的な名称を採用しているのは、日本軍「慰安婦」という言葉に拭いがたくつきまとう、天皇制国家に対する告発の声を聞き流そう(させよう)とする無意識の欲望(意図的な戦略)のためではないだろうか。

▼82 「要綱案」には反映されていない(本章第2節および第3節)。この部分に対する弁連協のコメントを下記に引用する(なお、金氏によるコメントの引用部は、いったん朝鮮語に翻訳された後で再度日本語に訳し直されているため、必ずしも原文の表現とは一致しない)。

 「①賠償の法的根拠――創設的規定 or 損害賠償義務の確認規定か?

※最も議論のあるところ。創設的規定とは、この法律に基づいて新たに賠償を求める権利が発生することを定めるもの。損害賠償義務の確認規定とは、既に賠償を求める法的権利があるが、特に戦時性的強制被害については特別法として賠償義務の確認をし賠償の方法等を定めるものをいう。

 損害賠償義務の確認とした場合には、従来の法体系の中で損害賠償請求権が存在することが前提となるが、法的根拠については裁判でも種々の主張をしているとはいえ、確定的な法的権利として確立していない現状がある。下関判決でも、立法不作為による損害を認めたものの、性的強制被害自体の損害については立法的解決を促すものとなっている。加えて損害賠償義務の確認とした場合には賠償金額の立証を要し、且つ金額も区々となるであろう。この場合には、立証の困難さがあることと伴に定額の一時金とはし難いものとなる。又、下関判決に副って放置し続けたことの責任を問うのは新たな権利とした方がよいのではないか。〔後略〕」

▼83 「要綱案」には反映されていない(本章第3節)。私見では「要綱案」は徹頭徹尾日本政府の法的責任の回避に終始しており、被害者に裁判請求権の事実上の放棄を迫る立場と合わせて「論理的破綻」はないと思う(無論、だからこそ余計に問題なのである)。

▼84 「要綱案」には反映されていない(本章第3節および第4節)。ちなみに、弁連協は「要綱案」の論理が「慰安婦」被害を戦後(も)「継続・放置した事実が違法という思考方式に基づいて」いると主張しているが、肝心の条文にはその違法性を明記していない。明らかに<内>と<外>で主張が使い分けられているのである。弁連協によるこの手のダブルスタンダードぶりについては、次節で検証する。

▼85 「要綱案」には反映されていない(本章第2節および第5節)。金氏は「要綱案」が「不幸」なものだと指摘している(おそらく婉曲な表現をあえて選んでいるのだと思う)が、責任主体を明らかにするためにも、私はこれを「不正義」と言い直しておく。これが「不正義」であるからこそ、弁連協ら「慰安婦」立法推進派は、法案が被害当事者によって「歓迎」されているという「事実」を、自己正当化のために最大限利用しているのである。

▼86 もちろん、弁連協は金氏の「意見を参照し」なかった。挺対協の批判と合わせて、これだけ本質的な指摘を朝鮮人にさせておきながら、それを意図的に無視するだけでなく、アリバイとして利用して、体裁を取り繕っている弁連協(の「元『慰安婦』の補償立法を求める弁護団協議会」)とはいったい何なのか?もはや軽蔑を通り越して単純に理解不能である。なお、本稿では文書として入手した両者の批判を掲載したが、同様の批判は朝鮮だけでなく他のアジア諸国からも寄せられていたと推測される。「要綱案」は、アジアの他者からの呼びかけを無化することによって(のみ)守られる、既成の「日本国家/日本人」による「崇高な熱情の産物」と(加藤典洋的な)「現実に対する深刻な苦悩の産物」であり、大日本帝国の負の遺産への居直りに他ならないと思う。

「慰安婦」立法と「国民基金」の連続性を問う (12)

■目次
(1) はじめに
(2) 第二の「国民基金」としての「促進法」
 (2-1) 「促進法」豆知識
 (2-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (2-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (2-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (2-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (2-6) より完璧な「国民基金」への道――(A) 被害国の世論の取り込み
 (2-7) より完璧な「国民基金」への道――(B) 保守・右派の取り込みと「国民基金」関係者との「和解」
 (2-8) より完璧な「国民基金」への道――(C) 戦後補償運動の日本国家への回収の完成
 (2-9) 結論
(3) 「要綱案」とは何か――他者からの呼びかけの無化
 (3-1) 「要綱案」前置き
 (3-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (3-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (3-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (3-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (3-6) アジアの他者を切断する「戦後補償」
 (3-7) 【資料1】戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見
 (3-8) 【資料2】「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書
 (3-9) 【資料3】第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ


(3-6) アジアの他者を切断する「戦後補償」

 ところで、「要綱案」も「促進法」と同様に、挺対協や婦援会の「賛同」を取りつけた上で、2000年4月に第二次(最終)案が発表されている。挺対協が「要綱案」の第一次案(1999年7月発表)に批判的な立場を取っていたこと(本章第7節)、「要綱案」が第一次案も第二次案も本質的にはまったく変わっていないこと(本章第9節)を考えれば、挺対協が一転して「賛同」に回ったことは不思議に思えるだろう。けれども、この間、弁連協は「要綱案」を「促進法」の根拠法として明確に位置づけ、それを挺対協らに通告しているのである(本章第9節)。挺対協はこの時点ですでに「促進法」を「歓迎することを決断し」ていた(第2章第6節)のだから、「要綱案」をも「歓迎」せざるをえなかったことは、容易に推測がつく。

 やや余談だが、弁連協が「要綱案」を「促進法」の根拠法として位置づけたのは、それが「要綱案」の実現にとって(対外的にも国内的にも)有利であると判断したからで、もし「促進法」がこの時点で挺対協の支持を取りつけていなければ、「要綱案」推進派と「促進法」推進派との間で「慰安婦」立法における主導権争いが激化していたかもしれない。実際には両者は早期に共犯関係を結ぶことになったが、仮に両者が対立する局面があったとしても、それは「国民基金」的「現実主義」路線を滑走するための方法論をめぐる抗争(単なる内輪揉め)にすぎないのだから、いずれにせよ戦後補償運動の日本国家への回収を早める結果にしかならなかっただろう。

 さて、これまで「要綱案」を批判的に検討してきたが、もっとも重要な点は、私がこれまで展開してきた批判のほとんどは、弁連協にとって実はまったく目新しいものではない、ということである。なぜなら、今から10年以上も前に、弁連協は「要綱案」(第一次案)をめぐって挺対協や金昌禄氏らから直接こうした批判を受けていながら、まったくと言ってよいほどそれを第二次(最終)案に反映させなかったのだから。弁連協がアジアの他者からの批判を見事に切り捨て、さらには挺対協の批判そのものをアリバイとして利用しさえすることで、この間の運動を進めてきたという事実は、徹底的に周知されてしかるべきだと思う。

 それでは、次節から3回にわたって、弁連協が「要綱案」の作成過程で他者からの呼びかけをいかに無化してきたかを検証してみよう。弁連協が戦後補償運動を「理念」と「政策課題」の二項対立として捉え、<外>からの批判を「理念」にすぎないとして一方的に切断して、<内>の論理=「国民基金」的「現実主義」の全面肯定に居直り続けていることを明らかにしたい。もちろん、この指摘は、「慰安婦」立法の本質を知りながら、それを支持している、その他の「戦後補償」運動関係者に対しても当てはまる。

 本稿で公開する資料は以下の通りである。いずれも貴重な文書であるので、少々長いが、ぜひ全文をご覧いただきたい。なお、公開にあたっては、誤字・脱字・誤訳を訂正し、一部漢字を日本語(の一般的な)表記に改めた。また、便宜のため文中には注釈を多用した。

●【資料1】戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見(第7節)
 挺対協が「要綱案」(第一次案)をめぐって弁連協に寄せた批判

●【資料2】「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書(第8節)
 金昌禄・釜山大学校法科大学助教授(当時)が「要綱案」(第一次案)をめぐって弁連協に寄せた批判

●【資料3】「第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ」(第9節)
 弁連協が関係者に送付した「要綱案」第二次(最終)案およびコメント


(3-7) 【資料1】戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見

戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見

韓国挺身隊問題対策協議会

 先日お送りいただいた「戦時性的強制被害者補償要綱」案(▼66)に対し、韓国は6人の弁護士、学者の意見をまとめて以下のようにお送りします。

 まず、6人の専門家の意見は二つに分けることができます。第一に、補償要綱を補完することとして、明らかに補償ではなく賠償の次元で接近しなければならない(▼67)という意見です。第二に、補償要綱の目的を、新しい権利の創出ではなく、国際法的な根拠によるものとしなければならないという意見です。

 様々な内容がありますが、可能な限り整理してお送りします。参考にしていただけたら幸いです。金昌禄教授はすでに意見書をお送りしたとのことですのでここでは省きました。

第一条 目的

1)謝罪の具体的な内容と方法が含まれねばならない。また、賠償でなければならない。(▼68)
2)日本国憲法の価値よりは国際法に依拠した普遍的な価値を追求しなければならず、そこから出発するべきである。(▼69)
3)以下の内容を修正および追加することを提案
 性的行為を強制し → 性的奴隷化を通して生存が不可能な状況を強要し、早期死亡、重い疾病等の状態に至らしめ、正常な社会生活を営むことを不可能なものとするなどの人道に対する罪を犯し(▼69)
 戦後その被害を放置したこと → 同時に戦後日本国が国際法と国内法によって法律的に負わされた犯罪者の処罰および賠償などの責任を遂行することを怠り(▼70)
 日本国憲法の根幹的価値に関わる基本的人権の侵害であったと認定し → 国際法および日本国憲法に対する違反行為であることを認定し(▼69)
 これら女性に対し → 被害者に対し
 謝罪し補償することを → 責任者の処罰を賠償を含めた国際法と憲法が求める法律上の責任を遂行することを(▼70)

第二条 戦時性的強制被害者

1)新しい名称よりは日本軍制奴隷、日本軍慰安婦という言葉の方がより適切であり、(▼71)
2)性的奴隷制を法律的に明らかに強調しなければならない理由は、人道に対する罪、戦時女性に対する重大な人権侵害としての犯罪に該当するためである。(▼69)
3)対象地域を、内閣総理大臣が指定するよりも、独立した機構が指定するべきである。(▼71)
4)法律によって恣意的に運営される可能性を遮断するために、義務条項として被害国団体の意見を聞くようにするべきである。(▼71)
5)被害者代表との合意の下に、国連人権機構、または国連人権高等弁務官、あるいは国際法の専門家など客観的地位の者を含めた日本政府、第三者専門家、被害者の三者構造的委員会を設置し、被害者の範囲を決定することが望ましい。(▼71)

第三条 補償

1)被害者の範囲を1993年日本政府報告書発表以後の生存者と遺族に限るよりは、被害当事者の意見が最も強く反映されなければならない。
2)より重要なことは、放置され続けたことに対する責任ではなく、性的強制被害自体であるから、賠償等の措置が取られなければならない。(▼72)
3)補償だけではない責任者処罰、謝罪、記念館設置等が含まれなければならない。(▼73)
4)集団的賠償として病院、療養施設、無委託住居施設等の領域が含まれなければならない。(▼74)
5)補償金額と方法は、とりあえず被害形態に即して一括で基本金額を支給することとし、個々人の事情に沿って追加的な措置を取ることが望ましい。(▼75)

第四条 補償委員会

1)補償委員会は、真相調査活動も並行しなければならず、その名称も、真相究明・補償委員会に変更するべきである。(▼71)
2)委員会の構成は、被害者との合意に基づく第三者構造的委員会が妥当であり、調査のための申請は個人およびNGO等の団体が代行できるものとする。
:委員会の職権による探知も可能とし、具体的な公開および処理については当事者の明確な同意を必要とする。
:被害の立証責任において当事者がおおよその状況を含め一連の証拠を提出すれば、申請人の資格が与えられるものとし、日本政府がこれを受け入れない場合、具体的な反証を提示しなければならないものとして、立証責任の転換を規定することが望ましい。(▼76)
3)委員会は、被害者団体の意見を最大限に聴取しなければならない。(▼71)
4)マクドウガル報告書(1998)65項は、「国連人権高等弁務官は日本政府と共に国内外の指導級人士で構成された委員会を作らねばならず、そこには金銭的賠償が適切かつ迅速に提供されるように賠償計画を立てることができる権限が与えられなければならない」と勧告している。従って国際賠償委員会を構成し、これを通して日本は賠償金を支給するようにしなければならない。(▼71)

 以上は、金昌禄教授(釜山大学法学部)、チョウ・シヒョン教授(チョンシン女子大学法学部)、ホン・ソンピル教授(梨花女子大学法学部)、朴チャンウン弁護士、張ワンイク弁護士らの意見を整理したものです。


▼66 「要綱案」第一次案は「戦時性的強制被害者補償要綱(案)」として1999年7月に発表され、「慰安婦」裁判の原告や被害者支援団体などに送られた。以下に、第一次案発表時の前文(末尾の「元『慰安婦』の補償立法を求める弁護団協議会」の連絡先を除く)を、【資料4】として公開する。なお、ここに示されている論理の問題点については、第9節でまとめて取り上げる。

【資料4】要綱(第一次案)発表時 前文

要綱(第一次案)発表時 前文

弁護団から原告(被害者)並びに支援者の皆さんへ!

 1999年1月21日、元『慰安婦』の被害回復を求める訴訟を行っている七つの弁護団が集まって、「元『慰安婦』の補償立法を求める弁護団協議会」を作りました。前の年4月27日に出された、山口地裁下関支部判決(以後下関判決といいます)に触発されて、元『慰安婦』の被害回復を図るための立法的解決の案を模索してみようとの趣旨です。

 ここに提案する「戦時性的強制被害者補償要綱(案)」(以後単に要綱案といいます)は、この弁護団協議会に参加した弁護団の討議の結果を現時点での第一次案としてまとめたものです。

 下関判決は、元『慰安婦』に対する被害回復のための立法を行うことが、国の憲法上の義務であると判示しています。要綱案は、下関判決が提示した立法をするときの要件を充足することを主眼としています。元『慰安婦』の方々の被害を回復する措置としては、賠償金の支払い、原状回復、公式謝罪、医療費・生活福祉費等の支給、教育普及活動等々があります。要綱案は、この内、補償金の支払いを中心とし、且つ一時金として支払う方式を採用しました。つまり、被害回復措置の中での一つの措置について提案するものであって、その他の被害回復措置を排除する趣旨ではないことを特に強調しておきます。

 ここに提案する要綱案は、弁護士レベルでの討議結果であり、原告(被害者)である依頼者との打ち合わせのための叩き台にすぎません。それ故、第一次案とします。これから、世界各国の被害者同士が合意できる要綱を作り上げるための第一歩となれば幸いです。

 被害者の活動を支援する人々や団体、この問題に関心を持つ方々の意見も十分に参考にしていきたいと思いますので、ご意見をお寄せ下さることを期待しています。

1999年7月 日
「元『慰安婦』の補償立法を求める弁護団協議会」
座長 藍谷邦雄

協議会参加弁護団一覧

・釜山従軍慰安婦・女子挺身隊公式謝罪請求弁護団
・フィリピン「従軍慰安婦」国家賠償請求訴訟弁護団
・在日元「慰安婦」謝罪賠償請求訴訟弁護団
・オランダ元捕虜・民間抑留者損害賠償請求弁護団
・中国人元「慰安婦」国家賠償請求訴訟弁護団
・中国山西省性暴力被害者損害賠償等請求訴訟弁護団
・台湾「慰安婦」賠償請求弁護団
(以上提訴順)

[討議参加弁護士名]

藍谷 邦雄
大森 典子
小野美奈子
川口 和子
清井 礼司
菅沼 友子
鈴木 五十三
三木恵美子
山本 晴太 (以上50音順)


▼67 国家の適法行為によって生じた損害に対して償う行為が補償であり、国家の違法行為によって生じた損害に対して償う行為が賠償である、という定義による。

▼68 「要綱案」には実質的に反映されていない。第一に、「要綱案」の「謝罪」の内実は空虚である。第二に、「要綱案」第二次案では第一次案の「補償」という文言がすべて「賠償」に変更されたが、依然として日本軍「慰安婦」問題(性奴隷制)が国際法上違法であるという立場を取っていない(本章第2節)。後者が挺協対らの要求を受け入れた本質的な変更ではなく、その要求を取り入れたように見せかける皮相的な手直しにすぎず、かえって挺協対らを利用したアリバイ作りとして機能していることを指摘しておく(もっとも、アリバイとしてもたいして出来がよくないが)。

▼69 「要綱案」には反映されていない(本章第2節)。

▼70 「要綱案」には反映されていない(本章第2節および第5節)。

▼71 「要綱案」には反映されていない(本章第4節)。

▼72 「要綱案」には反映されていない。「要綱案」第二次案では、被害者の範囲は、日本政府による「慰安婦」問題の(第二次)調査報告(「いわゆる従軍慰安婦問題について」)が公表された1993年8月4日時点の生存者と遺族から、1990年6月6日時点の生存者と遺族へと拡大されたが、この変更は「要綱案」が「性的強制被害自体」に対する日本政府の法的責任を解除していることと表裏一体である(本章第3節)。

 内閣官房内閣外政審議室:「いわゆる従軍慰安婦について」
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/pdfs/im_050804.pdf

▼73 「要綱案」には反映されていない。ただし、真相究明を含む不可欠な措置を回避するための手段として「記念館設置等」が進められる可能性はあるだろう(本章第4節および第5節)。

▼74 「要綱案」には反映されていない(本章第3節)。

▼75 「要綱案」には反映されていない。「要綱案」は「一時金」の支給にあたって「運用による弾力性をもたせ」ようとしているが、それは被害当事者の意思を尊重するためというより日本国家の意思を貫徹させるためである(本章第4節)。

▼76 「要綱案」にはほとんど反映されていない(本章第4節)。弁連協のコメントには以下のようにあるので、「調査のための申請は個人およびNGO等の団体が代行できるものとする」という要求のみ取り入れられているようである。

 「⑥行政委員会規則か法律事項か

 申請権者、申請手続等を法律事項とするか行政委員会規則とする。考慮の余地ある問題であるが、ある程度の要件は法律事項とするのが望ましい。その場合の要件として必要なものは以下のような事項がある。

 ・個人からの申請を要件とするか、或いは委員会の職権探知とするか、議論のあるところだが、前者とすべき。個人の意思は常に尊重すべきだからである。
 ・その場合でもNGOの代理を可能なものとする必要がある。
 ・公知の被害者には職権も可とすべき場合もあるが、政府に周知する義務を負わせ一般的な職権探知は不可とすべきである。」

「慰安婦」立法と「国民基金」の連続性を問う (11)

■目次
(1) はじめに
(2) 第二の「国民基金」としての「促進法」
 (2-1) 「促進法」豆知識
 (2-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (2-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (2-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (2-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (2-6) より完璧な「国民基金」への道――(A) 被害国の世論の取り込み
 (2-7) より完璧な「国民基金」への道――(B) 保守・右派の取り込みと「国民基金」関係者との「和解」
 (2-8) より完璧な「国民基金」への道――(C) 戦後補償運動の日本国家への回収の完成
 (2-9) 結論
(3) 「要綱案」とは何か――他者からの呼びかけの無化
 (3-1) 「要綱案」前置き
 (3-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (3-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (3-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (3-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (3-6) アジアの他者を切断する「戦後補償」
 (3-7) 【資料1】戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見
 (3-8) 【資料2】「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書
 (3-9) 【資料3】第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ


(3-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理

 それでは、「要綱案」と日本軍「慰安婦」問題(性奴隷制)の真相究明の関係はどのようになっているのだろうか?結論から言えば、両者はまったくとは言えないまでもほとんど無関係であると思う。「要綱案」の第二条を見てみよう。

 「2 戦時性的強制被害者―定義
 戦時性的強制被害者とは、これに該当するものとして内閣総理大臣が各国または地域別に類型的に指定する受給要件を充たす者とする。」

 被害者の認定(選別)が内閣総理大臣の裁量で行えるようになっていることにまず驚くが、「各国または地域別に類型的に指定する受給要件」という表現がまた曲者である。この点を弁連協のコメントと照らし合わせてみよう。

 「②対象地域

 対象地域を、法律事項(法律の条文に明文化すること)とするか、政令等の下位法令とするかは議論のあるところではあるが、ここでは内閣総理大臣の指定するものとした。対象地域によって被害の態様等種々の相違があり、解決の難易度も違いが生じることも考えられる。そこで、例えば地域毎の順次支給とする等の方法も可能とするため、運用による弾力性をもたせるためのものである。」

 一見もっともな解説に読めなくもないが、「地域毎の順次支給」という「弾力」的な「運用」によって被害者間に分断を強いた先例が「国民基金」であることを忘れるわけにはいかない。要は、経済的に困窮した被害国や被害者への「支給」を優先することで「事業」(▼65)の既成事実化を図ることが「弾力性」の中身だと思うのだが、さらに恐ろしいことに、藍谷弁護士(「元『慰安婦』の補償立法を求める弁護団協議会」座長)は、インドネシアのように被害者の「実数を把握できない」国では「一時金」の支給を「記念碑などで代替」するべきだと(集会等で)公言しているのであった。「国民基金」がインドネシアで、2万人以上と言われる「慰安婦」被害者を「見舞金」の支給対象外にして、医療福祉事業と称してハコモノを作った、そのパロディなのか、と勘繰りたくなる発言だが、本人は別にウケを狙っているわけではないらしい。いずれにせよ、「要綱案」が始めから真相究明に対する日本政府の責任を解除していることを物語るエピソードではあるだろう(しかも、後述するように、被害者側には一方的な立証責任が課されているのである)。

 また、「要綱案」の第四条には次のようにある。

 「4 戦時性的強制被害者賠償委員会
 内閣総理大臣は、賠償金の受給要件の認定手続及び支給方法の確定並びに賠償金支給の実施のために、独立の戦時性的強制被害者賠償委員会を設立する。」

 これに対応する弁連協のコメントを2点挙げておこう。

 「②委員会の性格

 ここでは、委員会を独立行政委員会とする。独立行政委員会とは、内閣の統制下にあるが、上級の指揮監督機関から独立してその権限の行使が認められるものである。独立行政委員会は委員会規則を制定しうるメリットがあり、実態を独立性のあるものとすることが可能である。委員会が内閣の恣意により運営されるのではなく、被害者や被害者の支援団体の意思を反映して運営されることを明確にするため、第二次案では「独立の」という確認的な文言を追加した。

 委員会が「被害者や被害者の支援団体の意思を反映して運営されることを明確にする」のであれば、それを条文に明記すればよいわけで、その方が委員会の「実態を独立性のあるものとすること」にも役立つと思うのだが、なぜかそうはなっていない。単に「「独立の」という確認的な文言を追加した」だけで「独立性」が担保できるなら誰も苦労しないだろう。

 ところで、民主党政権成立以降、「慰安婦」立法推進派の中心的な人々は、「促進法」の「戦時性的強制被害者問題解決促進会議」(第十条)と「要綱案」の「戦時性的強制被害者賠償委員会」を国家戦略室の中に作らせようとしているようである。国家戦略室は、「反貧困ネットワーク」の湯浅誠・事務局長を政策参与に任命したり、「仕分け人」を多数起用したことなどから、左派の評価も総じて好意的であるらしい。私などは、仮に「会議」や「委員会」が国家戦略室の中に立ち上げられたとしたら、真っ先に「仕分け」の対象になるのではないかと疑うが、彼ら・彼女らはすでに「国益」論的「戦後補償」の路線に回収されているので、余計な心配はしなくて済むのだろう。「会議」や「委員会」が「国益」論的価値観から「独立性」を保つことは、それがどこに設置されるかに関わりなく、まさに「慰安婦」立法の論理的帰結として不可能であると思う。

 「④不服申立手続

 委員会の受給決定(棄却の場合)に不服の場合は、その決定の取消を求める手続が必要であろう。行政委員会とすれば、行政処分としての性格を有することとなり、上級庁に不服を申し立てる行政不服手続を経た上、処分の取消を求めて訴訟を行う行政訴訟手続きによることとなる。」

 「受給決定」にあたっては、被害者が立証責任を負っており、加害者(日本政府)が反証責任を負うのではないことに注意すべきだろう。「要綱案」が国の義務として課しているのは、第五条に規定される「事業の実施と広報義務」であるが、この「広報活動」は、「この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示」を含む真相究明活動とは一切無関係である。また、「国民基金」がそうであったように、被害者に支給される「一時金」の総額よりもはるかに莫大な資金が、「広報活動」に名を借りた、「事業」の正当化キャンペーンに注ぎ込まれる可能性も、決して低くないだろう。

 「5 事業の実施と広報義務
 国は、この法律に基づく賠償金の支給事業を5年以内に完遂できるよう努め、そのための広報活動をしなければならない。」

 以上のことから、「要綱案」が、真実なき「和解」、あるいは真相究明なき幕引きを図ろうとしていることは明らかではないだろうか。本節の結論は次の通りである。

●(a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理


(3-5) (d) 加害者の処罰――論外

 「促進法」と同様、「要綱案」も日本国家の罪責を認めていないため、加害者の処罰規定は当然盛り込まれていない。第3節で述べたように、「要綱案」における「賠償」の法的根拠は創設的規定なのだから、「要綱案」が成立するまでは日本国家は「慰安婦」問題に関して「国家無答責」でありうるというのが、弁連協の基本的な立場だと言えるだろう。よって本節の結論も明らかである。

●(d) 加害者の処罰――論外


▼65 これは私の嫌味ではなく、「国民基金」同様、「要綱案」でも「一時金」の支給は「事業」として位置づけられている(第五条)。このあたりの感覚にも、とてもついて行けないものを感じるが、あるべき戦後補償から乖離した「要綱案」の実態を表すには、極めて的確な語彙ではあるだろう。

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