2009年12月

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「慰安婦」立法と「国民基金」の連続性を問う (10)

■目次
(1) はじめに
(2) 第二の「国民基金」としての「促進法」
 (2-1) 「促進法」豆知識
 (2-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (2-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (2-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (2-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (2-6) より完璧な「国民基金」への道――(A) 被害国の世論の取り込み
 (2-7) より完璧な「国民基金」への道――(B) 保守・右派の取り込みと「国民基金」関係者との「和解」
 (2-8) より完璧な「国民基金」への道――(C) 戦後補償運動の日本国家への回収の完成
 (2-9) 結論
(3) 「要綱案」とは何か――他者からの呼びかけの無化
 (3-1) 「要綱案」前置き
 (3-2) (b) 罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪――なし
 (3-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可
 (3-4) (a) この問題に関して日本政府が所持しているすべての記録及び情報の開示――無理
 (3-5) (d) 加害者の処罰――論外
 (3-6) アジアの他者を切断する「戦後補償」
 (3-7) 【資料1】戦時性的強制被害者補償要綱に対する意見
 (3-8) 【資料2】「戦時性的強制被害者補償要綱(第1次案)」に対する意見書
 (3-9) 【資料3】第二次案の作成のご報告 被害者並びに支援者の皆さんへ


(3-3) (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可

 では、「要綱案」は生存被害者とその家族に対する「賠償」をどのように定義しているのだろうか?「要綱案」の第三条を見てみよう。

 「3 賠償
 国は、戦時性的強制被害者の中、1990年6月6日の生存者またはその遺族に対し、この法律に基づき、一時金として戦時性的強制被害者一人当たり金○○○万円を支給する。」

 そもそも罪責を承認したうえでの日本の公式な謝罪がない以上、「一時金」が単なる「見舞金」以上のものにならないことは明らかだが、第三条の要は、なぜ「見舞金」の支給対象者が「1990年6月6日の生存者またはその遺族」に限定されているのか、という点にある。つまり、弁連協はなぜ、1990年6月6日以前に死亡した被害者とその遺族に対しては、「見舞金」の支給対象から排除しているのだろうか?

 先に結論を言えば、1990年6月6日とは、本岡昭次・社会党議員(当時)が国会(参議院予算委員会)で初めて日本軍「慰安婦」問題について質問した日なのである(▼64)第2章第3節で述べたように、弁連協の「慰安婦」立法の立論は、自然債務の論理によっている。もう少し厳密に言えば、弁連協の立場は、「促進法」および「要綱案」が規定する「賠償」の法的根拠は損害賠償義務の確認規定ではなく創設的規定である、とするものである。

 損害賠償義務の確認規定とは、サンフランシスコ条約や二国間協定などによっては、「慰安婦」問題に対する賠償および請求権の問題は解決されていないとして、日本政府の賠償義務を確認して賠償の方法などを定めるものである。一方、創設的規定とは、その法律(「促進法」や「要綱案」)によって被害者に賠償を求める権利が新たに発生するという規定である。ちなみに、下関判決には、「右の談話〔注:河野談話〕から遅くとも三年を経過した平成八年(一九九六年)八月末には、右立法〔注:「被害者に対し、より以上の被害の増大をもたらさないよう配慮、保証すべき条理上の法的作為義務」にもとづく立法〕をなすべき合理的期間を経過したといえるから、当該立法不作為が国家賠償法上でも違法とな」り、「慰安婦」原告たちは「被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、被告国会議員が右特別の賠償立法をなすべき義務を違法に怠ったことによる精神的損害の賠償を求める権利がある」という損害賠償義務の確認規定があるので、弁連協はここでも下関判決の限界を無駄に拡充していることになる。

 あえて誤解を恐れずに言えば、「要綱案」は日本政府の「解決済み」論を受け入れた上で、「不幸」にも日本軍「慰安婦」の犠牲者となった人々を、日本国憲法の理念にもとづいて、文字通り「慰安」するための立法なのだと思う。つまり、加害者が自らの罪責を否認しながら、自らの「良心」に従って被害者を「救済」するという、恥知らずな「不正義」の極みが、この「慰安婦」立法なのではないだろうか。したがって、「要綱案」の論理によれば、1990年6月6日以前には、日本政府はそうした「不幸」な犠牲者が存在することを知らなかったのだから、彼女らを「救済」する法的責任はもちろん「道義的責任」さえも発生しなかったということになるのである。

 まさに「国民基金」の犯罪性が執拗に繰り返されているわけだが、「要綱案」には「国民基金」に輪をかけて犯罪的な点がある。それは、弁連協が、「要綱案」第三条に定義される「一時金」の支給によって、「慰安婦」被害者の損害賠償の裁判請求権を事実上放棄させようとしていることである。弁連協の「要綱案」第二次(最終)案におけるコメント(本章第9節で全文を公開する)の一部を以下に引用しよう。

 「②創設的規定とした場合の権利と従来の損害賠償請求権との関係

 この法律によって定められる権利は、あくまでも新しい法律上の権利であって、従来の損害賠償請求権とは別のものであり、それに影響を及ぼさず、損害賠償請求の裁判等は引き続き行いうる。但し、後に述べる損益相殺はありうる。〔中略〕

④賠償金の額――今後の議論に委ねる
 
 〔中略〕金額は後の放棄条項との関係での考慮もあるが、本要綱では放棄条項は必要ないとの考えである。

注:放棄条項とは、この法律に基づく支給によって、今後損害賠償の請求はしないことの確定をすること。受給した場合訴訟は取下げとなり、新たな訴えもできない。

 類似法の例としては、USAの対日本人強制収容の賠償法に放棄条項があるが、これは大量訴訟による和解により取下げがなされたことが先行的にあったことによる。日本の法律では放棄条項の例は殆どない。

 但し、放棄条項がなくとも、損害賠償を求めた場合に受給の範囲で請求が充たされていると見なされる損益相殺の対象とはなりうる。

 念のためこれをわかりやすく言い直しておこう。つまり、弁連協は被害者に対して次のように通告しているのである。

 「「一時金」を受け取った後も裁判を続けたいならどうぞご自由に。でも、あなたたちの被害は「一時金」で元が取れていると裁判所は判断するでしょうし、どうせ勝ち目はありませんから(以下略)」

 「以下略」の部分はご想像にお任せするが、はっきり言ってこれでは露骨な恫喝としか思えない。あの「国民基金」でさえ被害者の裁判請求権自体を奪おうとはしなかったのだから、弁連協の破廉恥さは常軌を逸している、としかもう言いようがないのではないか。とりあえず、弁連協の弁護士たちが、これ以上日本軍「慰安婦」訴訟に「巻き込まれる」のはうんざりだ、と思っているらしいことは、ほぼ間違いないようである。以下に本節の結論を述べる。

● (c) 生存被害者とその家族に対する適切な賠償――不可


▼64 これに対して、日本政府は、「従軍慰安婦」は「民間の業者が」「連れて歩いてい」たもので軍や政府は関与していない、と答弁し、そのニュースを知った金学順さんが被害者として初めて名乗り出ることになった。以下に当日の会議録を紹介する。

 「○本岡昭次君 それから、強制連行の中に従軍慰安婦という形で連行されたという事実もあるんですが、そのとおりですか。

 ○政府委員(清水傳雄君) 先ほどお答え申し上げましたように、徴用の対象業務は国家総動員法に基づきます総動員業務でございまして、法律上各号列記をされております業務と今のお尋ねの従軍慰安婦の業務とはこれは関係がないように私どもとして考えられますし、また、古い人のお話をお聞きいたしましても、そうした総動員法に基づく業務としてはそういうことは行っていなかった、このように聞いております。

 ○本岡昭次君 先ほど言いましたように、海軍作業愛国団とか南方派遣報国団とか従軍慰安婦とかいう、こういうやみの中に隠れて葬り去られようとしている事実もあるんですよ。これはぜひとも調査の中で明らかにしていただきたい。できますね、これはやろうとすれば。

 ○政府委員(清水傳雄君) 従軍慰安婦なるものにつきまして、古い人の話等も総合して聞きますと、やはり民間の業者がそうした方々を軍とともに連れて歩いているとか、そういうふうな状況のようでございまして、こうした実態について私どもとして調査して結果を出すことは、率直に申しましてできかねると思っております。

 ○本岡昭次君 強制連行とは、それでは一体何を言うんですか。あなた方の認識では、今国家総動員法というものの中で、それが範疇に入るとか入らないとかと、こう言っておりますが、それでは範疇に入るものは、一体何人あったからそれはどうだとか言うんならわかるんですけれども、すべてやみの中に置いておいて、そういうものはわからぬということでは納得できないじゃないですか。

 ○政府委員(清水傳雄君) 強制連行、事実上の言葉の問題としてどういう意味内容であるかということは別問題といたしまして、私どもとして考えておりますのは、国家権力によって動員をされる、そういうふうな状況のものを指すと思っています。 

 ○本岡昭次君 そうすると、一九三九年から一九四一年までの間、企業が現地へ行って募集したのは強制連行とは言わぬのですか。

 ○政府委員(清水傳雄君) できる限りの実情の調査は努めたいと存じますけれども、ただ、先ほど申しました従軍慰安婦の関係につきましてのこの実情を明らかにするということは、私どもとしてできかねるんじゃないかと、このように存じます。

 ○本岡昭次君 どこまで責任を持ってやろうとしているのか、全然わからへん、わからへんでね、これだけ重大な問題を。だめだ。やる気があるのか。ちょっとこれ責任を持って答弁させてくださいよ、大臣の方で。

 ○委員長(林田悠紀夫君) 速記をとめて。
   〔速記中止〕

 ○委員長(林田悠紀夫君) 速記を起こして。

 ○国務大臣(坂本三十次君) 本件につきましては、政府は労働省を中心に関係省庁協力して調査いたしますので、なお時間をいただきたいと思います。」(「[001/001] 118 参議院予算委員会19号」会議録、1990年6月6日 ( http://kokkai.ndl.go.jp/ ))

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