2010年09月

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続:尖閣諸島=釣魚諸島の歴史的経緯は?

 尖閣諸島=釣魚諸島沖合で海上保安庁に逮捕・拘置延長されていた中国漁船の船長が解放された。9月25日の各紙社説の内容は改めて紹介するまでもないだろうし(▼1)、マスコミやネットの論調を見ても、ほとんど誰もが佐藤優と大きく違ったことは言っていないようである。ほとんど誰もが佐藤優とたいして異なることを述べていないのだとすれば、それはほとんど誰もが間違っているのである――としか私には思えない。

 以下は主に9月24日以前に書いたものだが、前回記事の続きとして掲載する。


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 尖閣諸島=釣魚諸島沖合での海上保安庁・巡視船と中国漁船との衝突と、その後の情勢に便乗して、不特定多数のレイシストが蠢いている。

 livedoorニュース:「在日華人向けの学校に脅迫の電話や手紙が相次ぐ=シンガポール紙」
 http://news.livedoor.com/article/detail/5023942/

 Yahoo!ニュース:「尖閣問題、「日本の中国人学校で爆破予告など脅迫が相次ぐ」-香港メディア」
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100923-00000014-scn-cn

 脅迫事件も記事へのコメントも最低だとしか言いようがないが、さらにひどいのは、マスコミがこの件をほとんど黙殺していることだろう(毎日が辛うじて「爆破予告:中国人学校に10回――神戸」という超ベタ記事を書いている)。しかも、Yahoo!ニュースの「横浜山手中華学校にも脅迫の電子メールが届いており、「尖閣諸島を侵犯している中国人は私たちの攻撃対象となる。すぐに中国に帰れ」と記されていた」というくだりも、元の記事(明報新聞網:「日右翼炸彈恐嚇華文僑校」)を読む限り、誤訳に近いのではないかと思う。私も逐語訳はできないが、脅迫の要点は「(「尖閣諸島」に「侵入」した「犯罪者」だけでなく)日本に居座っているお前らも我々の攻撃目標である。すぐに中国へ帰れ」ということ、つまり在日中国人すべてに対する無差別攻撃の宣告であり、「尖閣諸島」「侵犯」云々は明らかに後づけであると思うのだが、どうだろうか(もし私の解釈が間違っていればご指摘ください)。

 中国政府はすでに日中間の省・部クラス以上の交流を停止している。これは1972年の国交正常化以来初めてであり、小泉政権時代にさえ起こらなかった事態である。当時、左派が小泉の靖国参拝をこぞって批判していたことを思えば、単純に比較するのは間違いかもしれないが、あまりにも隔世の感がある。民主党政権下で日中関係が過去最悪となっている事態の責任を、左派がもっぱら中国の「反日」に押しつけて恥じ入らずにいられる(▼2)のは、尖閣諸島=釣魚諸島をめぐる歴史的経緯すなわち日本の侵略責任を一顧だにせず切り捨てている(▼3)からであり、その意味で、彼ら・彼女らは、首相の靖国参拝に抗議するアジアの声を黙殺する右派の振る舞いを反芻している。

 尖閣諸島=釣魚諸島が「日本固有の領土」であるという「オール・ジャパン」の共通認識に立つ左派にとって解明するべき問題は、せいぜい2010年9月7日に起こった一瞬の「衝突」の経緯にすぎず、尖閣諸島=釣魚諸島を日本がどのように「実効支配」するに到ったかという歴史的経緯ではない。けれども、私たちが日本政府に真に要求するべきなのは、衝突時の調査や海保が撮影していたというビデオの公開ではなく(中国政府はこれらに強く反対している)、尖閣諸島=釣魚諸島の「領有」を含む明治以来の日本のアジア侵略の歴史に関する調査および膨大な未公開資料の公開なのではないだろうか(▼4)

 尖閣諸島=釣魚諸島の帰属を、日本のアジア侵略の歴史の中に位置づけず、単なる領土問題として片づけようとするどのような議論も、こうした「オール・ジャパン」の共通認識への対抗軸にはならないだろう。中国政治が専門らしい田畑光永(▼5)は、「日中両国政府は正面から尖閣諸島(中国名「釣魚島」)の領有権について討議すべし」として、次のように「提案」している(強調は引用者による。以下同様)。


 大事なのは最終解決こそはるか遠い先にしても、一触即発の危険な状態を放置しないことである。それにはどうすればよいか。問題を交渉のテーブルに載せて、正面から主張をぶつけ合うのである。その際、双方が相手の主張を包み隠さず自国の国民に知らせることが重要である。ここでは双方の領有根拠を吟味することはしないが、私の見るところ勝負はいいところ五分五分である。〔中略〕

 しかし、これは言うは易いが、実行は困難であろう。政府が自分の弱点を国民の前にさらしつつ、妥協の道を探るには、よほど国民の信頼を得ていなければならない。残念ながら現在の両国政府はそういう状況ではなさそうである。とはいえ、事態がここまで来てしまった以上、もはやそれ以外に道はない。両国政府が問題を正面から討議するよう求めたい。


 リベラル21:「互いに弱点をさらけ出す議論をすべし――尖閣列島問題」
 http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-1322.html

 ここで田畑は根拠を一切示さず唐突に「勝負はいいところ五分五分である」と言い出して、コメント欄で(右から)突っ込まれているのだが、田畑は井上清の『「尖閣」列島――釣魚諸島の史的解明』を読んでおり、ネットで検索すると、2004年3月27日の「みのもんたのサタデーずばッと」に出演した際には、同書の要約に近い内容をコメントしていたようである。田畑はつい最近も「みのもんたの朝ズバッ!」に登場したが、尖閣諸島=釣魚諸島の歴史的経緯については何も言わなくなっていた。あと数年(数週間?)もすれば、尖閣諸島=釣魚諸島は単なる領土問題であるというスタンスすら見せなくなっているかもしれない。

 田畑がここまで無様に後退した原因は、田畑が「中国」について極めて饒舌に語り続けながら、日本人としての歴史的責任については、たいして何も考えていなかった(いない)ことにあると思う。田畑は、「反日デモは民族主義か――いくつかの論点整理」という論文で、2005年に起こった中国の「反日デモ」について以下のように述べている。


 3番目に、デモ隊が掲げたスローガンが日本の国連安保理常任理事国入り反対をはじめ、小泉首相の靖国神社参拝反対、教科書問題、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題、日貨排斥(日本商品ボイコット)など、多岐にわたっていたということ。それだけ両国間には問題が多いということでもあるが、同時にこれらは2005年春という時点で特に緊急性を持つものではなく、いわば中心となる要求なり、主張なりのないデモであったということである。〔中略〕

 前述したように、今回の反日デモには中国から見て、差し迫ってなんとかしなければならないような緊急の課題があったわけではない。国連安保理はまだどうなるか分からない段階であったし、靖国神社、教科書にしたところで、具体的に中国、あるいは中国人の何かが奪われる、侵されるという問題ではない。山東省の権益が目前で日本に奪われるのに反発した五四運動とは状況がまるで違う。今は「平和の時代」なのである。(田畑光永「反日デモは民族主義か――いくつかの論点整理」、高井潔司・日中コミュニケーション研究会編著『日中相互理解のための中国ナショナリズムとメディア分析』、明石書店、2005年、pp.90-92)


 ・・・・・・そして、田畑は中国における政権の腐敗と言論統制について滔々と語った後、次のように続ける。


 反日はこの段階で民衆が政治テーマで声をあげるには恰好の題材であったのではないか。〔中略〕反日行動ならよほどひどい違法行為をしなければ、中国共産党やその指導者を誹謗するのと比べれば、処罰の程度は比べものになるまい。

 そこで米国や韓国で、日本が国連安保理常任理事国に入ることに反対する動きが出てきたのをとらえて、期せずして反日の声の大合唱となったのではないか。(前掲書、pp.96-97)


 ・・・・・・要するに、田畑の「論点整理」に従えば、「日本の国連安保理常任理事国入り反対をはじめ、小泉首相の靖国神社参拝反対、教科書問題、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題、日貨排斥(日本商品ボイコット)など」は、中国の民衆にとって、すべてネタにすぎなかった、という話になるのであった。あまりのバカバカしさに思わず打ちのめされるが、2005年の中国の「反日デモ」に関して、このような衝撃的な「分析」を行う「中国人研究者」は、実は少なくない。例えば丸川哲史がそうである。


 それから、〇五年の反日デモについても言及しておきましょう。端的に経済ナショナリズムですね、自分たちは力が強くなったんだと。〔中略〕〇五年の反日デモについて、経済ナショナリズムっていう呼び方をしましたけども、それは、八九年の天安門事件との対比から来るものなんです。どういうことかと言うと、八九年の時には、学生もそうですけども、自分たちの不満が何であるかっていうこと、それを誰に向けて訴えかけるのかはっきりしていた。政府に対して明確に回答を求めていました。しかし、〇五年の反日ナショナリズムっていうものの目的はなんですか?

 はっきりしてないでしょ。日本政府に何か具体的な要求をしましたか?交渉や行動を行いましたか?何もないんですよ。日本にはもう侮られないような国家になっているはずなんだっていう、そういう感覚でした。総じて〇五年のデモは、まったく非政治的だったという解釈になります。

 もう一つ言うと、残念ながらと言うべきか、反日っていうのは、特に、中国では誰も反対しない主張です。それは、まあ、普通だろうっていう感じなので。だから、その意味でも非政治的なんです。つまり、誰もが賛成する了解事項です、反日って。(丸川哲史、「現代中国における三つのモダニティと現在」、『情況』2009年10月号、p.59)


 「何もない」というのは、丸川の「中国研究」の質の話ではないのかと思えてくるが、丸川のこの「分析」は、ここ数年顕著な「オール・ジャパン」現象に対する説明としては部分的に有効であると思う。つまり、「反日」を敵視する言説は、「特に、日本では誰も反対しない主張」であり、「まあ、普通だろうっていう感じ」であり、「誰もが賛成する了解事項」であり、したがって「オール・ジャパン」現象は優れて「政治的」な問題だということである。


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 ところで、目取真俊氏が「中国漁船の船長釈放について」「菅政権の拙劣な対応」を批判している。

 海鳴りの島から:「中国漁船の船長釈放について」
 http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/f9bc48ace3241e3cc60af4f5a0266309

 目取真氏は、日本の(とりわけ沖縄における)軍事力強化に反対する立場から、「問題を悪化させる中国側の強硬姿勢も強く批判する必要がある」と指摘している。私も日本の(とりわけ沖縄における)軍事力強化にはもちろん反対だが、だからといって「中国側の強硬姿勢」を「強く批判する必要がある」とは思わない。繰り返すが、私が言いたいのは、尖閣諸島=釣魚諸島の帰属問題は、日本の中国侵略の歴史と、その責任の不履行と切り離して論じることはできないのだから、事件が領土問題ですらないという前提に基づいた日本政府の一連の対応は、そもそも始まり――中国漁船の船長の逮捕ではなく尖閣諸島=釣魚諸島の「実効支配」――からして不当ではないのかということである。

 9月21日、那覇市議会は「尖閣諸島海域における中国漁船領海侵犯に関する抗議決議」と、「尖閣諸島海域における中国漁船領海侵犯に関する意見書」を全会一致で可決した。この「オール・ジャパン」現象は、常軌を逸した中国バッシングをフィードバックすることで、今後も加速度的に進行していくだろう。踏み止まるためには歴史に学ばなければならない。


▼1 しかし、一応紹介する。

読売新聞:「中国人船長釈放 関係修復を優先した政治決着」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100924-OYT1T01214.htm

朝日新聞:「中国船長釈放―甘い外交、苦い政治判断」
http://www.asahi.com/paper/editorial20100925.html#Edit1

毎日新聞:「中国人船長釈放 不透明さがぬぐえない」
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100925k0000m070116000c.html

東京新聞:「禍根残す定見ない判断 中国人船長釈放」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2010092502000068.html

産経新聞:「中国人船長釈放 どこまで国を貶(おとし)めるのか」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100925/plc1009250301005-n1.htm

 また、社説ではないが、党の見解を示した記事を挙げておく。

しんぶん赤旗:「国民に納得いく説明を」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-09-25/2010092501_02_1.html

▼2 ただし、一部ではさっそく米国陰謀論が展開されており、中国バッシングとも見事に両立している(らしい)。

 低気温のエクスタシーbyはなゆー:「漁業関係者「漁船が警備艇に故意に衝突することはありえない」」
 http://alcyone.seesaa.net/article/163481152.html

 低気温のエクスタシーbyはなゆー:「菅内閣は6月の初閣議でいきなり対中国強硬方針を決めた」
 http://alcyone.seesaa.net/article/163482908.html

▼3 これに大きく「貢献」しているのが、日本共産党の公式見解だろう。

 はてなブックマーク:「日本の領有は正当/尖閣諸島 問題解決の方向を考える - しんぶん赤旗」
 http://b.hatena.ne.jp/entry/www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-09-20/2010092001_03_1.html

▼4 もっとも、海保の記録をすべて公開すれば、日本政府は衝突時の経緯説明すら訂正せざるを得なくなる可能性が大いにある。


 同年〔2008年〕6月10日、尖閣諸島付近で巡視船「こしき」(1360トン)が台湾の遊漁船「聯合(リェンハー)号」(30トン)と衝突、沈没させた際、第11管区海上保安本部(那覇)は「こしきは聯合号の右後方から迫ったが、同船はジグザグに走り、右に急旋回したため衝突」と発表、当時の冬柴国土交通相も記者会見で正当性を強調した。ところが釣り客の一人がビデオ撮影をしていて、直進する聯合号に「こしき」が右から突っ込んだ状況が台湾で放送されたため、台湾メディアは「意図的衝突」と報道した。


 AERA:「海保のヘリ墜落/隠蔽体質変わらず2年前にも大失態」
 http://www.aera-net.jp/magazine/soul/100831_001885.html

▼5 Wikipediaによれば、「2009年12月15日、天皇の1ヶ月ルールを無視して急遽設定された面談(天皇特例会見)についても、「中国では昔から君子に逢うことを重視しており、副主席が面談することは天皇陛下の政治利用にはならない」とのコメントをしている」という、突っ込みどころ満載の人物である。よくあることだが、岩波書店からも多数の著書を出している。

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