2010年10月

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尖閣=釣魚島をめぐる諸言説批判――(2) 前田朗「尖閣諸島問題の基本文献について」

 先日の浅井基文氏批判に続いて、今回は尖閣=釣魚島(Diaoyu Dao)をめぐる前田朗氏の言説を見ていこう。


(2)前田朗「尖閣諸島問題の基本文献について」

 前田朗氏は、CMLという左派MLで、10月14日、10月15日、10月20日に、尖閣=釣魚島をめぐって発言されている。前田氏の発言の要旨は、「いずれにしても、井上説は過去のものとなって」おり「これに依拠して尖閣諸島領土問題を語ることは危険であり、もはや時代錯誤の域に入りかね」ないというものである。私は「井上説」のみに依拠して尖閣=釣魚島の歴史的経緯を語っているわけではないが、前田氏の投稿を読まれた読者が、日本国家・日本国民に対して尖閣=釣魚島の帰属問題を日本のアジア侵略の歴史の中に位置づけさせようとする要求(私のブログ記事も含むが、主には中国を始めアジア民衆からの抗議)を、「時代錯誤」であるとして切り捨てるようになっては堪らないので、必要最小限の再批判をしておきたい(なお念のため断っておくが、私はCMLのメンバーではなく、ML上の議論にはまったく参加していない)。

 前田氏は10月14日の最初の投稿で次のように述べておられる(強調は引用者による。以下同様)。


以下は、2つのML――[CML]および[pmn-ml]――へのある的確な投稿、及びそれに対するいく人かのリプライを読んでの私の感想、情報提供です。ほかのMLにも同報します。

この間、尖閣諸島の領土問題への関心が高まり、井上清の著作に注目が集まっています。ネット上で中国側は、下記のサイトをもとに議論しているといわれています。

「尖閣」列島 ――釣魚諸島の史的解明(井上清 初版1972/再刊1996)

http://www.mahoroba.ne.jp/~tatsumi/dinoue0.html

日本でも井上支持を唱える学者や市民が多数います。しかし、井上説を根拠にするのは危険です。ひたすら井上説を持ち上げている「政治学者」がいますが、ニセ学者と言っていいでしょう。少なくとも次の著作を検討する必要があります(他にもありますが割愛)。

A)井上清『「尖閣」列島――釣魚諸島の史的解明』(第三書館、1996年[現代評論社、1972年])

B)浦野起央『尖閣諸島・琉球・中国――日中国際関係史分析・資料・文献』増補版(三和書籍、2005年)

C)村田忠禧『尖閣列島・釣魚島問題をどう見るか――試される二十一世紀に生きるわれわれの英知』(日本僑報社、2004年)

D)浦野起央、劉甦朝、植栄辺吉『釣魚台群島(尖閣諸島)問題―研究資料匯編』
(刀水書房、2001年)

E)『尖閣研究――高良学術調査団資料集』(上下巻、尖閣諸島文献資料編纂会、
2008年)

F)『尖閣研究――尖閣諸島海域の漁業に関する調査報告』(尖閣諸島文献資料編纂会)

BやDの登場によって、井上説は過去のものとなったと見られています。また、昨日の産経新聞では、EとFこそが日本領土論の最大の根拠として取り上げられています。いずれにしても、井上説は過去のものとなっています。井上清の思想や方法論を知るためには有益でしょうし、学ぶべき点もあるでしょう。しかし、尖閣諸島の領土問題を論じるための根拠とするには、再検討が必要です。

私はA~Cを入手していますが、ちゃんと読んでいません。D~Fは入手していません。


 CML[005959]:「尖閣諸島問題の基本文献について」
 http://list.jca.apc.org/public/cml/2010-October/005852.html

 前田氏がなぜ「ちゃんと読んでい」なかったり「入手してい」なかったりする文献を根拠に、「井上説を持ち上げている「政治学者」」は「ニセ学者と言っていい」、「いずれにしても、井上説は過去のものとなっています」と公言されているのかは謎である(もっとも理由はいくつか推測できるような気がするが)。ちなみに、私はA~Cを「ちゃんと読」み、浦野の著書が井上の論文に対する実証的な反論たりえないことを示している。前田氏が良心的な人物であることは私も承知しているが、それだけに尖閣=釣魚島をめぐる前田氏の発言は、あまりにも不用意であると呆れざるを得ない。そもそも、前田氏は私が指摘したような浦野の歴史観についてはどのように考えておられるのだろうか?それすらも「ちゃんと読んでい」ないということなのかもしれないが、浦野の歴史観が右派のものであることは、任意の数ページを読めば、それなりに察しがつくと思うのだが・・・。

 前田氏は、翌10月15日の投稿(「Re: 井上論文に対する沖縄からの反論」)でも、「井上清の著作に依拠して尖閣諸島領土問題について議論する人は、おそらく[CML]の議論水準はこんなに低くてどうしようもないのだと世間に宣伝することを目的としているのでしょう。情けなくて涙が出そうです(笑)」と書かれている。私は「[CML]の議論水準」にはたいして関心もないが、この件に関して言えば、前田氏に「[CML]の議論水準」の低さを嘆く権利があるとは思えない。前田氏は10月23日にも次のように述べ、「尖閣諸島は本当に日本固有の領土なのか?」と題する小林善樹氏の読者投稿を暗に(?)貶めておられるが、前田氏の以下の批判は、どう考えても前田氏自身に向けられるべきものではないのだろうか。


尖閣諸島問題では、いくつかのMLや掲示板でも最新の「週刊金曜日」820号でも、ろくに勉強せずに殴り書きしたような見解が堂々と掲載されています。保守論壇でも保守論壇にしか通用しない議論がまかり通っています。どちらも、勉強なんかするものか、資料なんかちゃんと調べるものか、大声出せば勝ち、みたいな印象を受けます。


 CML[006097]:「Re: 前田朗さんの「みどり見解」へのご指摘に関して」
 http://list.jca.apc.org/public/cml/2010-October/005986.html

 当然のことだが、前田氏は常日頃から無根拠に他者を誹謗するような発言をされているわけではない。それではなぜ、前田氏は尖閣=釣魚島に関してこれほどひどい主張を繰り返しておられるのだろうか。思うに、その理由の一つは、前田氏のナショナリズム理解にある(他にも思いつく理由はあるが、あまり生産的ではないと思われるので書かないでおく)。再び10月14日の投稿を見てみよう。


(いずれにしろ、私は、領土問題にはさして関心がありません。私の関心は、「領土ナショナリズム」「民族ナショナリズム」がいかに形成されるか、いかに国際問題を引き起こすかという点です。「非国民入門セミナー」主催者としては、領土・民族・国民といったイデオロギーとのたたかいいこそ重要です。ですから、今のところ、尖閣諸島の領土問題それ自体について発言する気はありませんが、この問題を議論する方たちには、井上本だけを根拠にするような愚は避けたほうがいいとお知らせしておきたいと思います。)


 「日本の侵略責任がまさに問われるべき問題を、二国間のナショナリズムの対立として矮小化し、それらを「非理性的」なものとして「対等」に切り捨ててしまう」左派の論理の危うさについては、浅井氏批判の回ですでに指摘したが、浦野起央の著書に依拠して井上清の論文をほぼ全否定することで、(結果的に)日本政府の立場に与しておられる前田氏も、この危うさから逃れられていないようである。前田氏に限らず、おそらく日本人左派の大多数は、今回の事件によって中国民衆から改めて突きつけられた「反日」を、自らに向けられた批判として引き受けることを、(ほとんど無自覚のうちに)回避しようとしているのだと思う。前田氏の言説に見られる、「領土問題」に対する傍観者的態度、日本の侵略責任を問うアジアの「反日」を、日本の排外主義と同様に、解体するべき「ナショナリズム」として名指すような思想、そして「オール・ジャパン」現象への同乗は、いずれも尖閣=釣魚島をめぐる歴史的経緯を無化する左派の典型的な反応であると言えるだろう。

 ところで、ここで無視できないのは、左派の「オール・ジャパン」現象への併呑が、沖縄への「連帯」と同時進行的に起こっている、ということである(ただし、この問題については次回に持ち越す)。もう一点述べると、アジアの「反日」と向き合えない左派は、(過去の事例を見る限り)ほぼ確実に「転向」してくだろう、と私は思う。前田氏にとって、日本(国民)が侵略によって得た既得権を歴史的検証によって批判・解体しようとする試みを否定する、浦野の言説を持ち上げることと、在日朝鮮人の権利を保障しようと尽力されることは、互いに矛盾しないのだろうか?

 前田氏は、10月20日の投稿(「広がり激化する「反中国デモ」と、それに反対する座り込みや様々なアクションが始まりました!」)で、「ヘイトスピーチに反対する会」の記事紹介を含む呼びかけ文を転送されている。「ヘイトスピーチに反対する会」は、まさに前田氏のような、日本による尖閣=釣魚島の「実効支配」を正当化する言論を批判しているのだが、「ヘイト・クライム」に反対する立場から呼びかけ文を転送されている前田氏は、その点には疑問を持たれないのだろうか?(もっとも、リンク先の記事を読まれていないだけなのかもしれないが)。

 いずれにせよ、前田氏は尖閣=釣魚島をめぐる一連の不用意な発言を速やかに取り消されるべきだろう。僭越は承知だが、前田氏自身のためにもそう思う。

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