(1) 政権交代と国民主権とレイシズム 久し振りに
水島朝穂のウェブサイトを見ると、
「「政権交代」の意義と課題」という最新記事がアップされていた。「海外各紙・誌の記事や論評を全体としてみると、今度の政権交代について、好意的評価の方が目立つ」という前置きに続けて、水島自身も「「国民主権」という言葉を使った」鳩山首相ら新内閣の就任演説を(あえて)楽観的に持ち上げているのだが、特に以下のくだりには非常に驚いた。
日本でも、麻生内閣の末期、子ども手当てや高速道路料金などをめぐって、すべての政党が「左転換」したかのようだった。ドイツでも、保守系指導者の言動の「左転換」が目立つという(前掲Der Spiegel参照)。鳩山首相の「友愛」について、ドイツ誌は“Brüderlichkeit”の単語をあて、これは「左の響き」をもつと書いている。
平和憲法のメッセージ:「「政権交代」の意義と課題」
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2009/0921.html ・・・・・・すべての政党が「左転換」???って少しも気づかなかったのだが。というか、もはや
全政党が日本人原理主義で「よりよい(植民地主義的または帝国主義的)ナショナリズム」を競合しているだけなのだから、右も左もないだろう、と思っていたのだが。選挙後、「政権交代で外国人差別は改善されるのか?」と友人に聞かれたが、そもそも日本人の多くは外国人差別を問題としてすら認識していないし(というか「外国人問題」として認識していると思う)、まして改善の意思などあるようには思えない(ただし「外国人問題」に対する改善の情熱はあるだろうが)。
7月に成立し、民主党も賛成票を投じた、新たな入管法・入管特例法・住基法は、民主党(主導)政権下で施行される運びだし、民主・社民両与党が推進しようとしている永住外国人地方参政権についても、それが植民地支配・侵略戦争の責任の清算や、外国人に対する制度的・社会的差別の克服(民族教育の保障など、在日外国人が外国人として日本で生きていくための基本的権利の実現を含む)と切り離された文脈で実施される限り、権利の「付与」が、「多民族共生」の体裁を取った、外国人に対する分断支配・同化政策の一形態として機能することは、論理的に否定のしようがないだろう。むしろ、新政権は「この国を本当の意味で国民主権の世の中に変えてい」くために、これまで以上に国内の矛盾の代償を外国人に支払わせる体制を強化していくように、私には思われる。
(2) 中井洽とは誰か? その象徴的な例が、新内閣での
国家公安委員長・拉致問題担当大臣兼任という人事だろう(鈴木宗男の外務委員長就任も相当ひどいが)。
新・国家公安委員長・拉致問題担当相に就任した中井洽は、拉致議連副会長・民主党拉致問題対策本部長という経歴からも明らかなように、一言でいえば、対北朝鮮政策の最強硬派である。ついでに言えば、中井は
西村眞悟の兄貴分的な存在でもあり(さすがに西村のように北朝鮮に対する先制攻撃の必要性を公言してはいないが)、
安倍晋三や荒木和博らもこの人事に小躍りしているらしい。まずは昨日の毎日新聞のインタビュー記事を引用しておこう(強調は著者による。以下同様)。
−−拉致担当相と国家公安委員長の兼務は初めて。北朝鮮による拉致問題の解決にどう取り組むのか。
◆兼務という形に、鳩山内閣の意思が表れている。「対話と圧力」ではなく「圧力と圧力」だと考えてきた。従来の政府の制裁は生ぬるい。ミサイルや大量破壊兵器の計画に関連した15団体・1個人の預金を封鎖しているというが、残金は数百万円もない。当局に報告を聞いてからだが、拉致の認定もできるだけ増やして、世界にアピールする必要がある。そうでないと、米国も韓国も動いてくれない。
毎日新聞 [2009/09/23]:「新閣僚に聞く:鳩山内閣/5 中井洽・国家公安委員長 刑事司法、在り方変える」
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090923ddm002010031000c.html これだけでも新政権の前途の暗さが思いやられるが、中井はどうやら
後ろも暗いらしい。
本紙の調べによると、中井氏の資金管理団体「洽和(こうわ)会」は一九九一年十月に設立届がだされ、九五年三月に東京・麹町から衆院議員会館に事務所を移転しています。
議員会館は、電気代や水道代がかからず、政治資金収支報告書によると、九五年、九六年は光熱水費が「ゼロ」でしたが、九七年に四百三十二万六千円を計上して以降、九八年=百八十二万八千円、九九年=四百四十二万六千円、二〇〇〇年=百三十六万円、○一年=三百三十六万円、○二年=四百四十六万円、 ○三年=五百四十六万二千円、○四年=二百三十六万円と推移しています。
九七年から○五年までの光熱水費は総額三千万円を超します。
中井氏が支部長を務める民主党三重県第一区総支部の〇五年の収支報告書によると、光熱水費は四十六万六千円です。議員会館に事務所を置く、「洽和会」の光熱水費の異常ぶりが際立っています。
しんぶん赤旗 [2007/03/15]:「民主・中井氏が虚偽記載」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-03-15/2007031515_01_0.html それにしても、
国家公安委員長が拉致問題担当相を兼ねるという人事には、嫌悪を飛び越えてひたすら慄然とするのだが、新政権に期待を寄せているらしいリベラル・左派は、そのあたりは華麗にスルーしているようである。
中井自身、「国家公安委員長と拉致問題担当相の兼務についても「兼務が北朝鮮へのメッセージになれば幸いだ」と述べ」ており、さっそく朝鮮人へのさらなる弾圧を示唆している。本人のウェブサイトに公開されている日記を元に、以下に中井の人物紹介をしてみよう。
又、アメリカはテロに対する戦いを言うが、北朝鮮のテロ(特に拉致問題)に対する戦いでは妥協しているではないか。等々、問題も多く到底[注:「テロ特措法による海上自衛隊のインド洋沖での活動」の]再延長を認める事が出来ない問題をはらんでいる。
私の日記 [2007/09/12]:「安倍首相突然の辞意 疲れから来る異様な判断か?」
http://www.nakai-hiroshi.net/diary/2007/09/ 先に中井は「さすがに西村のように北朝鮮に対する先制攻撃の必要性を公言してはいない」と書いたが、どうやら撤回の余地がありそうである。ここで中井は、
米国が北朝鮮を先制攻撃してくれるなら、日本は米国主導の「対テロ戦争」にどこまでも協力するべきだ、と言っているのではないか。要するに、北朝鮮に対する婉曲な(でもないか?)先制攻撃論である。
対北朝鮮問題で政府が強行策をとったり、例えばソマリア沖海賊対策で自衛隊を送ったりすると、内閣の支持率がそれぞれ数%ずつ上昇するのが目に見えていた。しかし政府の対北朝鮮策はお茶を濁す程度の考えだし、国際社会も言葉だけの非難しか行わないのは見えていた。
民主党がこの時に少しは有効で毅然たる政策を発表すれば評価も変わるのにと、じれったい思いをしている。
私の日記 [2009/04/22]:「4月22日(水)」
http://www.nakai-hiroshi.net/diary/2009/04/ 中井の脳内が、対北朝鮮への強硬策(「強行策」ではないと思う)×自衛隊の海外派兵=内閣の支持率が数十%アップ、という方程式で満ち満ちていることが伺える。
中井が北朝鮮への先制攻撃をタブー視していないことは、ほぼ確実だろう。
去年10月に作り上げている拉致問題対策本部の制裁案を今こそいかすべきだと昨日、拉致問題対策本部の役員会を開催し、再度、幹事長に申し入れる事を決める。その席で今、日本は色々な制裁をしていると言っているが実際は形だけで、北朝鮮は痛くも痒くも感じていないのが実態だ。
例えば日本の北朝鮮系の永住者の方々は北朝鮮への渡航禁止と言われているが、実際は朝鮮総連の幹部6人だけが北朝鮮へ渡航禁止されているだけだ。
又、日本人も北朝鮮へ公務員が渡航する事を禁止されているが、自民党の国会議員をはじめ、実際には殆ど昔と変わっていないのが今の日本の制裁の実態だ。拉致・核・ミサイル・麻薬・偽札、どれをとっても一番の被害者は日本人であり日本国だ。この際、隣接の無謀な核保有国に対してあえて日本独自の制裁を行うのも必要だと重ねて皆に申し上げた。
私の日記 [2009/06/03]:「再び北朝鮮について」
http://www.nakai-hiroshi.net/diary/2009/06/ 「実際は朝鮮総連の幹部6人だけが北朝鮮へ渡航禁止されているだけだ」とはよく言ったものである。
入管行政があらゆる外国人の再入国を許可する(許可しない)権限を独占している以上、在日朝鮮人の(祖国への往来を含む)移動の自由は国家によって不断に侵害されてきた(いる)のだし、新たな入管法・入管特例法は、朝鮮籍の在日朝鮮人を狙い撃ちに露骨な再入国規制をかける悪法だ。政府は、「日本の北朝鮮系の永住者の方々」に対して、「北朝鮮への渡航はどうぞご自由に。ただし、日本への再入国は必ずしも保証しませんよ」と恫喝しているのである。一体何をどうすれば、「どれをとっても一番の被害者は日本人であり日本国だ」などという、腐臭を放つ主張ができるのか。そして、さらに不気味なのは、リベラル・左派を含む日本人の多くが、こうした主張におそらく異を唱えないだろうということである。
(3) リベラル・左派とは何か? 繰り返すが、私は中井の唱える政策にも、(中井に限らず)同一人物が国家公安委員長・拉致問題担当相を兼ねることにも、さらに言えばこれらの役職の意義についても、まったく同意できない。けれども、それ以上に同意しがたいのは、リベラル・左派の沈黙(による共謀)である。少なくとも、この沈黙を破らない限り、(中井以外の)別々の人物がそれぞれ国家公安委員長と拉致問題担当相に就任したところで、国家権力による朝鮮人への弾圧は容赦なく続くだろう。最低限、安倍政権下の在日朝鮮人弾圧を批判した人々は(こうした人々自体がそもそもあまりいないが)、今回の人事にも異を唱えるのが筋ではないか(例えば、青木理とか青木理とか青木理とか)。
二〇〇七年一月一八日、東京・霞ヶ関の警察庁。この日、毎週木曜日の長官定例会見に臨んだ漆間巌・同庁長官(当時)は、警察庁記者クラブの記者を前に次のような発言を口にしている。
「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が困る事件の摘発が拉致問題を解決に近づける」「北朝鮮に日本と交渉する気にさせるのが警察の仕事」「そのためには、資金源について『ここまでやられるのか』と相手が思うほど事件化するのが有効だ」
会見に出席した記者がさほどの問題意識を抱いた形跡もなく、新聞各紙は会見内容をほとんど報じていないが、考えてみれば随分と乱暴な発言だった。
言うまでもなく、警察組織の役割は「法と事実に基づく犯罪捜査」であり、「北朝鮮が困る事件の摘発」を意図的に行なうと警察トップが口走るのは、歪んだ警察権の行使につながりかねない。まして「北朝鮮に日本と交渉させる[注:ママ]気にさせるのが警察の仕事」などと言い放つに至っては、警察権を外交圧力に活用すると公言したに等しく、いわば一種の"政治警察宣言"ではなかったか。
だが、漆間長官は〇六年一一月三〇日の定例会見でも「北朝鮮への圧力を担うのが警察の役割だ」と述べており、一連の発言はいわば漆間氏の"持論"だった。
青木理、「安倍政権下、対朝鮮総連圧力政策の実態」、『世界』2008年7月号、pp.153-162
これまで見てきたように、
中井が国家公安委員長・拉致問題担当相を兼任する民主党政権は、安倍政権下で行われてきた以上に過酷な弾圧を、在日朝鮮人に対して仕掛けてくるのではないか、と考えないわけにはいかない。というか、中井洽についてGoogleで検索しただけの私でも、こうした結論に行き着かざるを得ないのだから、青木がその可能性を見過ごしているはずはないだろう。もっとも、在日朝鮮人への一連の人権弾圧を、自公政権を批判するためのネタとして扱っていたのであれば、それと同等あるいはそれ以上の人権弾圧を行う(可能性の高い)民主党政権を批判しないというスタンスにも、それなりに一貫性があると言えるかもしれない。要するに一貫して腐っているのである。
まあ
青木には期待するだけ無駄だろうが、日本のリベラル・左派とは何なのか、という根本的な問いは、民主党政権下でより薄気味悪いものになっていくのだろう。しみじみ思うのだが、政権交代後の楽観的な世論は、あまりにも不気味すぎやしないか。