侵略責任 Archive

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「人道的侵略」産業とシリア(1)

■目次:
(1) はじめに
(2) 「アラブの春」という嘘(1)
(3) サルバドル・オプション――NATO側諸国からシリアへの「死の部隊」移設作戦
(4) 「戦争賛成左翼」への道――ジルベール・アシュカルとその植民地主義的利用者たち


(1) はじめに

 リビアに続いて、「人道的介入」という名の帝国主義的侵略が、シリアに対して(も)差し迫っている。11月23日、NATOのリビア侵略を主導したフランスのアラン・ジュペ外相は、「シリア国民評議会」(SNC: Syrian National Council)――カダフィ政権を転覆した「リビア国民評議会」のシリア版――の代表と会談し、(欧米諸国でいち早く)NATOによる「人道的回廊」の設置を含めたシリアへの「人道的介入」について公的に言及し、法的にも実質的にも象徴的にもシリア国民をまったく代表していないSNCを、「我々が手を携えたい合法的なパートナー」であると誉め称えた(▼1)。

 国連人権理事会は同日、シリア各地で3月以来、軍・治安部隊による「超法規的処刑や恣意的な逮捕、強制失踪、性的暴行を含む拷問、子どもの人権侵害」が横行しているとするレポート――「シリア・アラブ共和国に関する独立した国際調査委員会の報告書」(▼2)――を発表し、12月2日、シリアに対する三度目の非難決議を採択した。12月12日には、ナバネセム・ピレイ国連人権高等弁務官が、「約9カ月に及ぶ反政府デモへの弾圧による死者が5000人を超え」「シリアでの武力弾圧が『許しがたい状況』に陥っている」(▼3)とするデジャヴに満ちた発言を行っている。

 シリアをめぐる国連人権機関および国際人権NGOの動向は、メディアや先進諸国のリベラル・左派の対応と同じく、リビア侵略直前の状況を不気味に反復している。ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、「『戦争のような日常』:シリア・ホムス県のデモ弾圧」(11月11日)(▼4)、「『必要なあらゆる手段を使え!』:シリアでの『人道に対する罪』に関する個人責任及び上官責任」(12月15日)(▼5)などの報告書を意欲的に作成し、アムネスティ・インターナショナル(AI)も、「医療危機:シリア政府、負傷者と医療ワーカーを攻撃」(▼6)を始めとする多くの文書をリリースして、「国連の加盟国に対し、断固たる行動をとるよう」(▼7)訴えている。

 けれども、シリアの「人道に対する罪」をこぞって糾弾する、これらの人権機関の報告書は、後述していくように、もはや「人道的介入」/「保護する責任」の業界関係者によるプロパガンダと見なすべきものですらある。HRWや国際連合協会(国連のA級諮問民間団体)世界連盟を筆頭に、国際人権機関の多くは「保護する責任を実現する国際連合」(ICRtoP: International Coalition for the Responsibility to Protect)(▼8)という名実ともに凄まじい組織の参加団体であり、これらの「人道的介入」/「保護する責任」キャンペーンの加速に呼応して、12月8日、数百人規模の米・NATO軍がシリア国境に程近いヨルダン領への侵攻を開始しているようである(いわゆる「イラク撤退米軍」の一部が合流しているという)(▼9)。

 リビアの場合では、国際刑事裁判所(ICC)の報告書が依拠した主な情報源までもが、「リビア人権連盟」(LLHR: Libyan League for Human Rights)やフォックス・ニュース、CNN、CIAといった、NATOのリビア侵略を推進する組織やメディアによるものだった。「リビア人権連盟」(LLHR)は、1989年にスウェーデンで設立されたNGOで、「米国民主主義基金」(NED)の支援を受けている。「リビアの人道的戦争:証拠は存在しない」("Humanitarian War in Libya: There is no evidence")という興味深いインタビュー調査(▼10)は、ICC報告書の「証拠」にあたる(はずの)箇所が、いずれも非公開であったり、「編集済み(=削除済み)」であったり、LLHRを参照していたりする(しかも参照先のLLHRでは当の「報告書」自身が参照されている)ことで、ICCを含むこれらの人権機関やNGO、メディアが、証拠をまったく示すことなく、リビアの「人道に対する罪」を捏造していた事実を明らかにしている(▼11)。

 シリアの場合も手口は概ね似たようなものであり、シリア人の圧倒的大多数は、イスラエルや日本、ペルシア湾岸の親米独裁国家を含むNATO側諸国による「人道的介入」/「保護する責任」の履行を正当に拒否して、過去数カ月にわたって自決権を掲げる大規模なデモを繰り広げている(▼12)。

 次回から何回かに分けて、シリアに対する「人道的介入」において国際的な人権機関が果たしている役割を中心に、シリアをめぐる情勢を分析していく。登場する主な組織をあらかじめ紹介しておこう。


(1)「シリア国民評議会」(SNC: Syrian National Council)

 「リビア国民評議会」のシリア版。アル=アサド政権の転覆を目的として2011年9月にトルコ・イスタンブールで結成される。当初のメンバーは260名以上とされるが、指導者のブルハーン・ガルユーン(Burhan Galioun:フランス)や高官のアブドゥルバースィト・サイダー(Abdulbaset Seida:スウェーデン)を筆頭に、多くは欧米在住の亡命者で、一部は名義貸しによる名ばかりメンバー。「リビア国民評議会」やアラブ連盟からシリア国民の正式な代表として「承認」されているが、シリア国民にはほとんどまったく承認されていない。NATO側諸国の忠実すぎる代弁者として、NATOに対して、自国の軍事基地(シリア空軍基地およびタルトゥースのロシア海軍基地)の地図まで差し出して、自国民への空爆を執拗に要請している。12月6日にはヒラリー・クリントン米国務長官との会談を行うなど、リビア新政権のシリア版を目指して邁進中。(▼13)(▼14)


(2)「シリア国民調整委員会」(SNCC: Syrian National Coordination Committee)

 シリアの反体制派による組織。SNCとよく似た略称だが、SNCCは諸外国の介入に一貫して反対し、政権の転覆ではなく改革を要求して、非暴力の反政府デモを行っている。シリア国内では一定の支持を得ているが、NATO側諸国には政治的に黙殺されており、(アラブ連盟の本部がある)エジプト・カイロに使節団を派遣した際にはSNCの支持者に取り囲まれてリンチまで受けている。(▼14)


(3)「自由シリア軍」(FSA: Free Syrian Army)

 (元)リビア反政府軍のシリア版。SNCと協力関係にあり、アサド政権転覆のための軍事支援をNATO側諸国に要請している。指導者は7月にシリア空軍を離反したリヤード・アル=アスアド(Riyad al-Asad)だが、主要メディアの報道とは異なり、メンバーの多くはシリア軍出身の転向者ではなく、主に米欧イスラエルの諜報機関が武装してきたNATOの傭兵である。後述する米国の「サルバドル・オプション」――「死の部隊」移設作戦――の受け皿になっており、11月にはリビアの「新政権」が600人の兵士をトルコ経由で派兵し、FSAに合流させている。NATO側諸国のメディアに登場するシリアの「(平和的な)反政府デモの参加者」の一部(多く)は、しばしばマシンガンで武装した、このFSA兵士たちである。(▼13)(▼15)(▼16)(▼17)


(4)「シリア人権監視団」(SOHR: Syrian Observatory for Human Rights)

 「リビア人権連盟」(LLHR)の即席コピー。主要メディアや国連機関、HRWなどの国際人権団体の情報源として最も重宝されているシリア在外新設NGOの一つ。サウジアラビアの王政を支持しながら民主主義を賛美するという怪しげなイデオロギーを掲げている。拠点は英国。(▼14)


(5)「現地調整委員会」(LCC: Local Coordination Committees)

 同じく主要メディアや国際人権機関が情報源として多用している組織。SNCの下部団体で、アサド政権の転覆が目的であることを公言している。メンバーの大半は亡命者で、13名はSNCのメンバーとされる。シリア在住メンバーの有無は不明。その他もほとんど不明だが、メンバーないし協力者で、ベイルートに亡命中の「サイバー・アクティビスト」のFacebookには、NEDやHRW、在シリア米大使館が「関心事項」として紹介されている。(▼18)


(6)アラブ連盟(AL: Arab League)

 現在では、NATOのリビア侵略を支えた「湾岸協力会議」(GCC: Gulf Cooperation Council)――参加国はサウジアラビア、UAE、クウェート、バーレーン、カタール、オマーン――が主導権を握る親欧米組織に変質し、シリアの加盟資格の停止、SNCの承認、シリアに対する「制裁」の実行、NATOによる「飛行禁止空域」設定の支持などを通じて、シリアへの干渉・弾圧を強めている。11月25日現在、加盟国はいずれも自国民に対してシリアを退避するよう勧告している。(▼14)(▼19)



▼1 Azeri Press Agency, France calls for humanitarian zone in Syria, 23 November 2011, http://en.apa.az/news.php?id=160171

▼2 United Nations Human Rights Council: Report of the independent international commission of inquiry on the Syrian Arab Republic, 23 November 2011, http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil/specialsession/17/docs/A-HRC-S-17-2-Add1.pdf

▼3 ロイター通信, シリア弾圧の死者5000人超に、許しがたい状況=国連弁務官, 2011年12月13日, http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE7BC01A20111213

▼4 Human Rights Watch, “We Live as in War” Crackdown on Protesters in the Governorate of Homs, Syria, 11 November 2011, http://www.hrw.org/reports/2011/11/11/we-live-war-0

▼5 ヒューマン・ライツ・ウオッチ, シリア:「射殺」命令下した指揮官らの氏名 発表, 2011年12月15日, http://www.hrw.org/node/103682

Human Rights Watch, “By All Means Necessary!” Individual and Command Responsibility for Crimes against Humanity in Syria, 15 December 2011, http://www.hrw.org/reports/2011/12/15/all-means-necessary-0

▼6 Amnesty International, Syria: Health crisis: Syrian government targets the wounded and health workers, 25 October 2011, http://www.amnesty.org/en/library/info/MDE24/059/2011/en

▼7 アムネスティ・インターナショナル日本, シリア : 国連加盟国は、断固たる行動をとるべき, 2011年11月28日, http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=1023

▼8 International Coalition for the Responsibility to Protect, CURRENT MEMBERS, http://responsibilitytoprotect.org/index.php/about-coalition/current-members

▼9 Sibel Edmonds, Hundreds of US-NATO Soldiers Arrive & Begin Operations on the Jordan-Syria Border, 11 December 2011, http://www.boilingfrogspost.com/2011/12/11/bfp-exclusive-developing-story-hundreds-of-us-nato-soldiers-arrive-begin-operations-on-the-jordan-syria-border/

▼10 The Humanitarian War, Humanitarian War in Libya: There is no evidence, http://www.laguerrehumanitaire.fr/english

▼11 William Blum, The Anti-Empire Report, 1 November 2011, http://killinghope.org/bblum6/aer99.html

▼12 「グローバル・リサーチ」が最近の大規模な自決権デモの様子を伝えている。

Millions Gather in Syria's Squares to Express Condemnation of Arab League Decisions and Reject Foreign Interference: Photographic Evidence: People against US-NATO R2P, Global Research, 29 November 2011, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=27926

▼13 Ipek Yezdani, Secret Syria meet in Hatay, 29 November 2011, http://archive.hurriyetdailynews.com/n.php?n=secret-syria-meet-in-hatay-2011-11-29

▼14 Mahdi Darius Nazemroaya, The Legal Regime being formed against Syria by the Arab League, SNC, and R2P, Strategic Culture Foundation, 29 November 2011, http://www.strategic-culture.org/news/2011/11/29/the-legal-regime-being-formed-against-syria-by-the-arab-league-snc-and-r2p.html

▼15 Michel Chossudovsky, The Pentagon's "Salvador Option": The Deployment of Death Squads in Iraq and Syria, Global Research, 16 August 2011, http://www.globalresearch.ca/index.php?aid=26043&context=va

▼16 RT, Bomb voyage: 600 Libyans ‘already fighting in Syria’, 29 November 2011, http://rt.com/news/libya-syria-fighters-smuggled-475/

下記サイトから日本語訳が読める。

爆撃遠征: 600人のリビア人‘既にシリアで戦闘中’, マスコミに載らない海外記事, 2011年12月1日, http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/600-787f.html

▼17 Tony Cartalucci, IISS: Syria's Opposition Is Armed --Placard-Waving Protesters are actually Machine Gun-Wielding Terrorists., Land Destroyer Report, 15 November 2011, http://landdestroyer.blogspot.com/2011/11/iiss-syrias-opposition-is-armed.html

▼18 Julie Levesque, Media Lies Used to Provide a Pretext for Another "Humanitarian War": Protest in Syria: Who Counts the Dead?, Global Research, 25 November 2011, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=27785

▼19 Paul Joseph Watson, Arab State Urges Citizens To Leave Syria, Global Research, 25 November 2011, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=27863

「英霊」への応答としての「復興」

 今年は8月15日が休刊日のため、各紙とも「8・15」の社説は14日に掲載された。今年の社説は、『毎日』を除いては、敗戦と東日本大震災を重ね合わせ、「先人」(≒「英霊」)に日本の「復興」を誓うという類の構成を取っている点で、原発問題をめぐる主張の差異(温度差)はあれ、主要紙の論理はほぼ収斂していると言える。

 『産経』は、「国策遂行指導の誤りにより重大な失敗を重ね、無残な破局に至った」「66年前の日本」と、「非常事態を想定外として考えてこなかった戦後日本」――とりわけ「戦後民主主義者が集まる国家指導部」〔注:民主党政権のこと〕――の「リスク感覚」を批判し、「自ら死地に赴いた英霊の祖国繁栄の礎になるという思いに応える」ために(も)、「「強く、頼れる国」として日本を立て直す」しかない――その一環として「世界一安全な原発を目指し、これまでの技術力を発展・継承していく」べきである――と述べている。

 産経新聞[8/14]:「あす終戦の日 非常時克服できる国家を 「戦後の悪弊」今こそ正そう」
 http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/517ff5645ede00c89a7d49eb223beed5

 『朝日』の主張は、「自滅への戦争を選んだ」「軍人たち」と「当初の勝利に浮かれ、軍人をもり立てた」当時の国民と、戦後の「原発依存の過剰さ」を「放置、容認」してきた「「大本営発表」顔負け」の「原子力村の自己過信」と「「大半の国民の無関心」という共犯関係」を批判し、戦艦大和の「青年士官」の「つぶや」き――「進歩のないものは決して勝たない。負けて目覚めることが最上の道だ。……今目覚めずしていつ救われるか」――に「答え」るために(も)、国民の「生命や財産」を「守り抜く」「民主主義を鍛え直す」しかないというものである。

 朝日新聞[8/14]:「終戦に思う―今、民主主義を鍛え直す」
 http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/1abff47c376649a2f404e536474bfadc

 『読売』は、「日本の平和と豊かさは、昭和の戦争での多くの犠牲の上に築かれている」として、「先人への感謝の気持ち」を謳った上で、「軍に押され、戦争への流れを止められなかった」「戦前」の「政治の貧困」と「「責任回避の楽園」の愚」を、「脱原発」の「空気」に流され、与野党連携による復興の「足を引っ張」っている菅政権が繰り返している、と非難している。

 読売新聞[8/14]:「戦後66年 政治の「脱貧困」をめざせ」
 http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/abcc91b07c561a4f6bb920fa0c301336

 『日経』の社説は、「あんな無謀で、理不尽な戦争」に「ピリオドを打った」「昭和天皇の聖断」と「復興への思い」を崇め、「だれもが、上を向いてがんばった時代」を遠い目で語り、「この国は必ずや、よみがえると信じて」と結び、カルト臭と燃え尽き感を漂わせている。

 日経新聞[8/14]:「8.15を思い、3.11後の日本を考える」
 http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/0162f31fae592e8d28c5dbf834f416e8

 各紙とも、侵略や原発推進を散々煽ってきた自らの責任が眼中にないだけでなく、日本の植民地支配・侵略と原発政策が他国(民)に強いてきた(いる)おびただしい被害が、あたかも存在しないかのような歴史認識を呈している点で、今さらながらそっくりである。

 日本国民のアジア・太平洋戦争史観について、吉田裕は「一応、侵略戦争認識が、八〇年代から九〇年代にかけて、定着をした」(「対米従属と戦争責任問題へのダブルスタンダードがもたらしたもの」、『前衛』2011年9月号、p.171)と論じているが、吉田自身が触れているように、「二〇〇六年四月実施の朝日新聞の世論調査によれば、「日本がおこなったこの戦争はどんな戦争だったと思いますか。侵略戦争だったと思いますか。自衛戦争だったと思いますか。それとも両方の側面があったと思いますか」との問いに、「侵略戦争だった」が三一%、「自衛戦争だった」が七%、「両方の側面がある」が四五%、「よく知らない」が一五%、「その他・答えない」が二%」であるという。現在のマスコミほどひどくはないにせよ、惨憺たる有様であり(オウム信者の半数以上が今でも地下鉄サリンのテロを不可避の聖戦で(も)あったと考えているようなものだ)、およそ情状酌量の余地はないだろう。

 『朝日』に倣って、『戦艦大和』から引用してもよいかもしれない。


 太平洋戦争は、侵略国日本が当然たどるべき破局への道程であったか。それとも明治以来、西洋の帝国主義的侵略に抵抗を続けてきた帰結としての、やむにやまれぬ聖戦であったのか。日本はこの戦争によって、アジア諸国に対し決定的に敵対国への道を歩んだのか。逆に、待望の独立をアジアの大半にもたらした救世主であったのか。

 われわれは戦争の渦中にあって、これらの難問に思い悩んだ。分かる部分と分からない部分とあり、太平洋戦争のかかげる旗印を、全面的に是認することも、全面的に否認することもなし得なかった。この気持は、今も変わらない。(吉田満『戦艦大和』、角川文庫、p.214)


 畢竟、アジア(人)に対する日本人の思想と感性は、大日本帝国の皇軍兵士からたいして「進歩」していないのであり、仮に吉田裕が言うように、日本国民内部で侵略戦争認識が定着しているのであれば、「どう見ても日本の侵略戦争が全てのはじまり」発言で、某「ゆるキャラ」のTwitterが閉鎖に追い込まれるはずもなかっただろう。もっとも、この件では『産経』を含むネット右翼の攻撃だけでなく、アジア・太平洋戦争が侵略戦争で(も)あったと考えているらしい立場からの、「侵略戦争という認識は正しい(個人の思想の自由である)が、自治体キャラの発言としてはいかがなものか」的な――歴史認識を非争点化させて日本社会の「空気」で調教しようとする――側面攻撃ないし(主観的)「フォロー」が致命的だったのではないかと思う(「戦争のドキュメンタリー番組を見たッ!当時の日本は北朝鮮状態な件」なるツイートは、リベラル・左派に支配的な「空気」を上手く読んでいたと思うが)。

 最後に、原発報道がリベラル・左派に定評のある『東京』の社説を取り上げる。

 「新たな「災後」の生と死」と銘打ったこの社説は、別段「反原発」を主張しているわけではない。いわく、日本は「食品の汚染測定」で「世界一の技術を誇ってい」る(初耳である)、今後の「長期にわたる放射線による影響調査」は「日本のがんへの取り組みを一段と強化する機会になるはずで」ある(・・・)、「あらゆる手段で放射能と闘い、がん予防に尽力すれば恐れおののくことはない」云々。ちなみに、「あらゆる手段」として例示されているのは、「食品の汚染測定」と「長期にわたる放射線による影響調査」と「抗がん治療」なのであった。

 これでは「放射能との闘い」とは、長期低線量被曝の大規模人体実験であることが暴露されているようなものではないか。さすがに社説子も白々しいと思ったのか、「多くの末期がん患者が雄々しく病に立ち向かい、残された時間の中でも立派な生き方をのこした例を私たちは数多く知っています」と付け加え、次のように締めくくっている。


 幕末の思想家、吉田松陰は二十九歳の若さで処刑されました。処刑の前日、人間の寿命には長短があるが、「それにふさわしい四季がある」と述べ、明日死ぬわが身にも「四季はすでに備わっており、花を咲かせ実をつけているはずだ」(「留魂録」講談社学術文庫)と書きのこしました。

 生ある限り、自らの四季を豊かにする努力を惜しまない。それこそが新たな「災後」に、まず心の復興を成し遂げる一歩となるのではないでしょうか。


 東京新聞[8/14]:「終戦の日に臨み考える 新たな「災後」の生と死」
 http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/322e35e4316feb438216eb503b7b5e9e

 「十歳で死ぬる者には、おのずから十歳の中の四季がそなわっており、〔中略〕十歳では短すぎるというのは、数日しか生きない夏蝉の運命をして、百年も千年も経過した椿の木の寿命にひきのばそうというものである」と遺された「留魂録」を引き合いに、「新たな「災後」の生と死」を語る「反原発」メディアのシュールさも相当なものだが、それに輪をかけて不気味なのは、吉田松陰の「花」となり「実」となったのが、端的に明治以来の侵略国としての日本であるということだろう。熱烈な天皇主義者であり、アイヌモシリ・琉球・朝鮮・台湾・中国・フィリピン・オーストラリアに対する侵略・植民地化を主張した吉田は、「維新殉難者」として靖国神社に合祀されている「英霊」でもある(ついでに言えば、『週刊金曜日』における佐藤優の連載タイトルになっている「飛耳長目」も吉田に由来する)。


 おおよそ、皇国の皇国たる所以は、天子の尊厳が絶対にかわらないということからきている。(「講孟余話」、『吉田松陰集』、筑摩書房、1969年、p.273)



 オーストラリアは日本の南にあって、海を隔ててはいるが、それほど遠くでもない。その緯度はちょうど地球の真中あたりになっている。だから草木は繁栄し、人民は富み栄え、諸外国が争ってこの地を得ようとするのも当然なのである。ところがイギリスが植民地として開墾しているのは、わずかその十分の一である。僕はいつも、日本がオーストラリアに植民地を設ければ、必ず大きな利益があることだと考えている。

 朝鮮と満洲はお互いに陸続きで、日本の西北に位置している。またいずれも海を隔て、しかも近くにある。そして朝鮮などは古い昔〔注:「神功皇后の三韓征伐以来」云々〕、日本に臣属していたが、今やおごり貴ぶったところが出ている。何故そのようになったかをくわしくしらべ、もとのように臣属するよう戻す必要があろう。

〔中略〕

 今急いで軍備をなし、そして軍艦や大砲がほぼ備われば、北海道を開墾し、諸藩主に土地を与えて統治させ、隙に乗じてカムチャッカ、オホーツクを奪い、琉球にもよく言い聞かせて日本の諸藩主と同じように幕府に参勤させるべきである。また朝鮮を攻め、古い昔のように日本に従わせ、北は満洲から南は台湾・ルソン島の諸島まで一手に収め、次第次第に進取の勢を示すべきである。(「幽囚録」、『吉田松陰集』、筑摩書房、1969年、pp.105-107)


 日本社会は土壌ごと除染しなければ、まともな「花」も「実」もできそうにない。

uedaryo氏はダメだ

【4/22 追記】 本文を一部加筆・修正した。ところで、ブログ「全体通信」の最新記事を読みながら改めて思ったが、uedaryo氏が金光翔さんや私のブログを見ているのであれば、この間、私はともかく金さんに、このようなくだらない批判に取り合う暇がないことくらい容易にわかりそうなものである。仮に、uedaryo氏が自らへの批判を最大限回避する意図をもって、あえてこの時期にトラックバックを送りつけてきたのであれば、そうした行為は軽蔑に値する。

 ちなみに、uedaryo氏は昨日の記事「私はもう疲れた。とにかく今はゆっくり休むことにする」と臆面もなく発言している。「金光翔氏やmedia debugger氏はダメだ」などという罵倒記事を書いておきながら、自分は「歴史問題への関心がひと段落付いた今、リハビリを優先」するというのだから恐れ入る。やはり「uedaryo氏はダメだ」。


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 ちょうど一週間前のことになるが、「はてなブログ」からこんなトラックバックがやってきた。
 
 リハビリ雑記録:「金光翔氏やmedia debugger氏はダメだ」
 http://d.hatena.ne.jp/uedaryo/20110414/1302754449

 結論から言えば、批判の前提が破綻しているので、本来なら反応する義務もないのだが、せっかくトラックバックをいただいたので、一度は簡単に付き合っておこう(おそらく二度目はない)。


00年代以降、リベラル・左派の間でも中国・韓国の反日ナショナリズムに対し、批判が高まっていった。それに対し極左(金光翔氏やmedia debugger氏)からは「佐藤優現象」とか「オールジャパン現象」という批判が提起された。それは中国・韓国の反日ナショナリズムを積極的に擁護し、それをテコに日本の過去清算を求める思想だといえよう。


 最初に断っておけば、私は「中国・韓国の反日ナショナリズムを積極的に擁護し、それをテコに日本の過去清算を求める」べきであるという主張をしたことは一度もない。「オールジャパン」現象(という言説の中)で私が述べていることは、(1)日本国家/日本社会/日本国民がアジアに対する侵略責任(植民地支配責任・侵略戦争責任・戦後責任)をいまだに果たしていないにもかかわらず、(2)日本のリベラル・左派(までも)がそうした状況を実質的に容認するようになっているため、(3)日本国民内部においてはアジアの反植民地主義が「反日ナショナリズム」として表象される現象が生じている、ということである。言い換えれば、植民地主義の克服はまず何よりも日本人自身の問題であり、私は自分がアジアの反植民地主義を「擁護し」たり、それを「テコに」(=利用して)「日本の過去清算を求める」ことができるような立場にあるとは考えていない。

 もっとも、<佐藤優現象>批判をも「中国・韓国の反日ナショナリズムを積極的に擁護し、それをテコに日本の過去清算を求める思想であるといえよう」などと勘違いしてまとめているuedaryo氏には、こうした論理そのものがほとんどあるいはまったく通用しない可能性がある(仮に通用するのであれば始めからこんなトラックバックがやってくるはずもない)。そこであえてuedaryo氏のために、アジアの「反日ナショナリズム」の問題を、ジェンダー問題に置き換えることで、比喩的に考えてみることにしたい。この場合、私が主張していることは、(1)(ヘテロ男性から構成される)ある集団Xが極めてジェンダー差別的な言動を繰り返しているにもかかわらず、(2)Xの中で(は)ジェンダー問題に積極的に取り組んでいるはずの男性(までも)がそうした状況を実質的に容認するようになっているため、(3)X内部においてはフェミニズムが「女性のヒステリー」として表象される現象が生じている、ということになる。

 それでは、uedaryo氏の記事をこのような文脈に置き換えて読んでみよう。これで金光翔さんや私に対するuedaryo氏の批判がいかにバカげたものであるかがわかるだろう。


一時期は私もこうした超絶女性思想に魅惑され、女性のヒステリーの擁護を試みたが、結論から言えば限界は明らかであった。

たとえばAさん・BさんとCさんやDさんの対集団X感情が顕著に違うことを無視して、Xに「女性」を対置する粗雑さは覆いがたい(▼1)。〔中略〕

「女性のヒステリー」を擁護すれば、CさんやDさんが比較的「理性的」なのはどう考えればよいか? という新たな問題が生じるし、そんな問題はXのジェンダー問題を考える上で脱線でしかない。

もちろんCさんやDさんも決して単純な理性一色ではないし、(Xのジェンダー差別の)被害を訴えることもある。であればこそ、「女性のヒステリー」は置いといて、女性の被害当事者と連携しジェンダー問題への取り組みを進めるべきである。「女性のヒステリー」の擁護にとらわれていては、Aさん・Bさんを「フェミナチ」として奇人変人扱いし、のけ者にしようとする男性至上主義者に対抗できない。


 また、uedaryo氏は(釣魚島=尖閣諸島をめぐって)「中国では反日デモが高揚したが、同じく領有権を主張する台湾はおおむね静観した」、「フィリピンは日本の安保理常任理事国入りを支持するようになった」などと述べているが、前者は事実に反しているし(単に日本のマスコミではあまり取り上げられなかったというにすぎない)、後者もフィリピンの民衆が「日本の安保理常任理事国入りを支持するようになった」という事実を証明するものではまったくない(▼2)。uedaryo氏は「将来的には金氏たちのほうが取り残されるのではないかと思われる」とも述べているが、単に(日本の右傾化に)「取り残され」ないことに重きを置くような「思想」など私には用がない(もっともuedaryo氏が大勢に乗っているともあまり思えないが)。

 uedaryo氏は「ダメな過去記事は削除してい」るとのことなので、(他の過去記事は読んでいないので知らないが、少なくとも)上記の記事がなぜ現存しているのかは謎である。「リハビリ」中でも「勉強中」でもどうでもよいが、いずれにせよuedaryo氏は「ダメだ」「ということを痛感させられた」。


(▼1) この比喩では重要な文脈が捨象されてしまうので補足しておくが、過去にアジアを侵略し、今なお侵略責任をほとんどまったく果たしていない日本が、侵略者として、被侵略者であるアジアに「対置」されるのは、あまりにも当然のことである。「在日朝鮮人の中にも「親日的」な人間はいるのだから、日本人に「在日朝鮮人」を対置する粗雑さは覆いがたい」などという主張が成り立たないように、「親日」/「反日」という植民地主義的尺度を持ち出して、アジアを恣意的に(観念上)分断することで、アジアに対置される責任から逃れようとするuedaryo氏の論理の「粗雑さは覆いがたい」。

(▼2) 例えば以下など。

 「12月8日に当たり日本の国連安保理事会常任理事国入りに反対し、戦争の被害者への謝罪と個人賠償を求める国際共同声明」
 http://www.gun-gun.jp/sub/kyoudouseimei0412.htm

アジアプレスは北朝鮮に謝罪しないのか?

 石丸次郎氏がZEDさんのブログ記事の削除と謝罪を要求している(いた?)件について、私が3月1日にアジアプレス(野中章弘氏および石丸次郎氏宛て)に送ったメールは、3月4日に石丸氏から「現在非常に多忙にしておりまして、来週、お返事を差し上げたく存じます」との短信をいただいて以降、どうやら放置されてしまっている模様である。アジアプレスの朝鮮民主主義人民共和国関連報道を分析するために、『サンデー毎日』の連載「朝鮮半島を読む」のバックナンバー(No.1~346)を(図書館で)十数時間かけて通読した身としては、仮に返事がいただけないとすれば大変残念なことである。

 「朝鮮半島を読む」をめぐる私の考察はいずれ改めて掲載するとして、今回は石丸氏や野中氏に以前からずっと尋ねたかったことを書いておこう。――「アジアプレスが総力を挙げて取り組」んでいた(▼1)はずの「朝鮮半島を読む」には、科学的「事実に基づかない誹謗中傷があり、具体的事実を摘示することにより」、朝鮮民主主義人民共和国(政府)の「社会的評価を低下させる多くの記述が存在」する可能性が高いと考えられるが、この件に関してアジアプレスが当該記事(多数)を訂正し、朝鮮民主主義人民共和国(政府)に謝罪しようとしないのはなぜなのだろうか?

 周知のように、朝鮮民主主義人民共和国が横田めぐみさんのものとして提供した遺骨が、2004年12月に日本側の鑑定で別人のものであると発表されてから、日本国内の朝鮮民主主義人民共和国バッシングは一層深刻化し、(一時弱まりかけていた)経済「制裁」論が急激に高まっていった。けれども、非周知のように(?)、英国の科学雑誌『ネイチャー』は、最も肝心なこの鑑定結果が科学的検証を経ていない事実を明らかにしている(▼2)。『ネイチャー』記事は日本国内では殆ど黙殺されたが(▼3)、この問題に関しては、2005年2月8日に細田博之官房長官(当時)が会見で「(記事は)きわめて不十分な表現で、言ってもいないことも書かれた」と発言したり、町村信孝外相(当時)が衆議院外務委員会での首藤信彦民主党議員の質問に対して「(記事については)いちいち言う必要はない。鑑定結果に何らかの影響を及ぼすものではない」(『朝日新聞』2005年5月10日付記事)と答弁したりしているので、マスコミが知らないはずはない。まして「総力を挙げて」朝鮮半島情勢に「取り組む」――「その的確な情報収集力と分析力には定評がある」――アジアプレスが知らないなどということはあり得ない。

 というわけで、この「ニセ遺骨」問題に関するアジアプレスの記事を読んでみよう(強調は引用者による)。


1.『ネイチャー』記事報道前


 北朝鮮が横田めぐみさんのものとした「遺骨」は別人の物だった。偽の遺骨を提出したのは、火葬すればDNA判定ができないと高をくくっていたのだろうが、結果は最高指導者・金正日総書記の顔に泥を塗るようなもの。日朝正常化交渉への影響も避けられず、金正日政権は自ら墓穴を掘った。打撃は大きいと言わざるを得ない。

 なぜ外交交渉でウソやデタラメが出てくるのか。それは金正日の意向なのか。北朝鮮内部の意思決定はどうなっているのか。〔中略〕(p.46)

 偽の遺骨によって、日本世論の強硬化は避けられず、経済制裁論もいよいよ力を得て、声を大きくするだろう。(p.47)


 石丸次郎「制裁発動に追い込まれる日本政府」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2004年12月26日号)


 先週、北朝鮮は横田めぐみさんの遺骨が別人だった問題で、「日本側の鑑定結果を受け入れることも認めることもできない」と日本へ正式回答を伝えてきた。「鑑定結果は捏造」というものだ。これで経済制裁論が高まるのは避けられない。(p.46)


 野中章弘「韓国でも繰り返される拉致犯罪」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2005年1月2日号)


 横田めぐみさんのものと北朝鮮が提示した遺骨が、別人のものであるとのDNA鑑定結果が12月8日に公表された。6日間の沈黙を経て、北朝鮮当局は外務省スポークスマン談話で、鑑定結果に対する公式見解を発表した。談話の文面は一見、日本の鑑定結果への反発と強硬姿勢で貫かれているようだが、よく読むと当惑と苦渋に満ちたもので、金正日政権が相当うろたえていることが伝わってくる。一部を引用してみよう。

「夫が自分の妻でもない別人の遺骨を日本側に手渡したということは想像だにできない。日本側の主張通り、彼が他人の遺骨を日本側に渡したとすれば、一体そこに何を期待するのかということである」

 科学的根拠を突きつけられてオロオロしている様子が目に浮かぶようだ。〈遺骨を渡したのは政府ではなく、あくまで夫だ〉と、まず政府の責任を回避してみせ、〈その夫が他人の骨を渡すなんて、我々も信じられないのだ〉と、他人事のように驚いてみせている。そして鑑定結果については、

「特定の目的のために事前に綿密に企てられた政治的脚本に基づくものであるとの疑惑を抱かざるをえない」

と、受け入れがたいものとしているが、なんとも婉曲な言い回しである。遺骨がニセモノだと北朝鮮外務当局が知っていたのか、「特殊機関」(工作機関)からはホンモノと言われていたのかわからないが、言いがかりにしても、力がない。

 そして、〈日本の極右勢力、反共団体、ブッシュ〉を持ち出して「反朝鮮策動」だと、一応吼えてみせ、核問題をめぐる6カ国協議への不参加をちらつかせる。最後は、「対朝鮮『制裁』が発動されれば、われわれはそれをわが国に対する宣戦布告と見なし、強力な物理的方法で即時対応するであろう。これによって朝日関係と地域情勢に生じる破局的な結果に対しては、全面的に日本極右勢力が負うことになろう」

 と、経済制裁発動を牽制してみせた。「遺骨捏造」によって日本の世論が一気に強硬に傾いてしまったことを見て、事態が経済制裁発動にエスカレートすることを警戒してのことだと受け取れる。だが、それは経済制裁による物質的ダメージを恐れているのではなく、日本が経済制裁に踏み込むことで、国交正常化がはるかに遠のいてしまうことを恐れてのことだろう。(p.46)

 協議中断は、日本側にとっては拉致解決が膠着してしまうことになり、北朝鮮にすれば、国交正常化の暁に手に入れられる巨額の援助資金が遠のくことを意味するわけだ。〔中略〕

 北朝鮮は、横田めぐみさんとは別人のものだった遺骨の返還と、鑑定結果の提示を求めてきた。ボールは北朝鮮側に投げられた。日朝正常化交渉を進められるか、頓挫させるか、金正日政権は岐路に立たされている。(p.47)


 石丸次郎「「偽遺骨」否定談話に北朝鮮の苦渋」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2005年1月9日号)


 最後に、私は横田めぐみさんの遺骨捏造問題についてもA氏に聞いた。

「『拉致問題』という言葉がテレビや新聞などにぽつぽつと出るようになった。だが、いったい、いつ誰が誰を拉致した問題なのか、報道も説明もない。遺骨がニセ物だった? 今初めて聞いた。酷い話ですが、人民は何も知らされていませんよ」

 年頭から暗たんたる気持ちで電話を切った。せめて、凍りつく豆満江に一日も早く春が訪れることを祈ってやまない。(p.47)


 石丸次郎「「特別検閲」に凍り付く中朝国境地帯」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2005年1月30日号)


2.『ネイチャー』記事報道後


 周知のとおり、日朝両政府間の公式的な協議は昨年11月以来、約1年ぶりだ。横田めぐみさんの「偽遺骨」問題で中断していたのだ。この一年、双方非難の応酬を続けてきたが、小泉首相は「対話と圧力」という言葉を淡々と繰り返しながらも、「自分の任期中に国交正常化したい」と日朝修好の意欲を隠さなかった。ゆえに経済制裁については消極的だった。(p.46)

 02年9月の小泉訪朝で指導者が拉致を認め、謝罪したことが、日本の世論に火を付け、態度硬化を招くことになった。北側にすれば「やらずぼったくり」感が残っているのは間違いない。しかし、それもこれも、いくら冷戦下での対南工作の一環とはいえ、外国人を誘拐拉致するという常軌を逸した行動のツケである。相応の代償は払うほかない。(p.47)


 石丸次郎「日朝協議の裏で繰り広げられた事前折衝の“驚愕事実”」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2005年12月4日号)


 ここからは提言である。被害者の両親の高齢化が進んでいることに鑑み、とにかく被害者の帰国を最優先にするため、真相究明は時代に委ね、犯人引き渡しと補償については放棄する。これを、まず両国が確認した上で、「再々調査」を日朝合同で始めるのだ。実際の被害者の帰国と安否の調査については、外務省や政治家が担当するのは困難だろう。極度に縦割り構造の北朝鮮の組織にあって、拉致にかかわった特殊機関は外務省や労働党官僚の言うことなど聞かないからである。

 日本からは警察を中心に拉致問題調査の特別チームを作って平壌に送り、北朝鮮側の特殊機関と「合同調査」の形をとる。貧弱な、あるいは虚偽の死亡証拠では通用しないことは、今や北朝鮮にも分かっているはずだ。日本の調査チームが関与することで、現時点でもっとも精度の高い結果が得られるだろう。(p.43)


 石丸次郎「高齢化が進む、ああ、拉致被害者家族」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2007年4月15日号)


被害者家族に怒りと深い失望を与えたのは、あまりに貧弱、かつ虚偽の混じった「死亡証拠」を出してきたからだ。日本世論が一気に硬化して経済制裁支持に傾いたことを、北朝鮮側は当然、戦術的失敗として総括しているはずだ。(p.43)


 石丸次郎「注目! 日朝交渉は最大の山場を迎える」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2008年9月7日号)


 ・・・・・・『ネイチャー』記事報道後の記事をもう二本だけ挙げておこう。


 このような情報の不足や偏りの第一の原因は、もちろん北朝鮮が世界最強といってもいい情報鎖国であり、外部の者がなかなか入国できないことにある。

 深刻なのは週刊誌とテレビである。週刊誌は、私の実感として、新聞社系も出版社系も、第一次情報取材をめっきりやらなくなった。政府関係者や外交筋、朝鮮半島問題の専門家に聞いた二次、三次情報をつなぎ合わせて“記事”にしているケースがほとんどだ。

 民放テレビの実態はさらにお粗末だ。北朝鮮パートを担当する記者やディレクターのほとんどは朝鮮語を全く解さないし、専門的な勉強や調査をしたこともない。

 北朝鮮情勢はますます流動化していく可能性が高い。世論形成と政策に大きな影響力を持つメディアが、自覚を持ってしっかりした北朝鮮報道をするよう、求めたい。(p.43)


 石丸次郎「北朝鮮報道におけるメディアの責任」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2007年1月21日号)


 北朝鮮は依然として高い壁に覆われていて接近が容易ではない。情報の確認や検証も難しい。一方で間違っても訴えられることはない。こうして未確認情報や眉唾情報が大手を振ってまかり通り、流布してきた。テレビや雑誌の北朝鮮報道を見れば見るほど、北朝鮮理解が混乱するという本末転倒が起こっているように思う。北朝鮮報道にかかわる者は襟を正さなければならないと、自戒をこめて訴えたい。(p.43)


 石丸次郎「テレ朝「金正雲写真」誤報事件は起こるべくして…」(「朝鮮半島を読む」、『サンデー毎日』2009年6月28日号)



3.結論
 
 『サンデー毎日』の連載はすでに終了したが、石丸氏や野中氏は今からでも自らの膨大な「北朝鮮報道」を批判的に検証し、上記記事を含む多数の記事を訂正して、朝鮮民主主義人民共和国(政府)に謝罪するべきではないのか。


【参考】

 片山貴夫のブログ:「横田めぐみさん「ニセ遺骨」問題を掲載しなかった『週刊金曜日』」
 http://katayamatakao.blog100.fc2.com/blog-entry-77.html


(▼1) 「朝鮮半島を読む」の連載開始にあたって『サンデー毎日』2003年8月17・24日号に掲載された紹介文より。


 アジアプレス――。代表の野中章弘氏を中心に志あるジャーナリストが集い、アジアにこだわるなかで、世界を報じてきた。発足は1987年。この間東ティモール、アフガニスタンなどで精力的に取材活動を展開し、その的確な情報収集力と分析力には定評がある。

 その彼らがいま、照準を定めた先が朝鮮半島である。

 野中氏は言う。

「北朝鮮をめぐっては扇情的な報道も少なくありません。だが、それが何を生み出すのか……。今こそ、冷静な目が必要だと思うのです。私たちは、朝鮮半島情勢を探ることが日本の今を照射することになる、というスタンスで報じていきたいと思っています」

 本号から始まった「朝鮮半島を読む」は、アジアプレスが総力を挙げて取り組む。スクープはもちろん、毎号、読者を驚かせる内容となるのは間違いあるまい。

 ご期待いただきたい。(「アジアプレスが読む朝鮮半島情勢」、『サンデー毎日』2003年8月17・24日号、pp.38-39)


 ちなみに、連載の初回記事は野中章弘による「北に消えた工作員たち」(pp.40-42)である。

(▼2) 三度に及ぶ『ネイチャー』記事(3 February 2005 Volume433 Issue no.7025 p.445, 17 March 2005 Volume434 Issue no.7031 p.257, 7 April 2005 Volume434 Issue no.7034 p.685)の日本語訳は下記サイトから読むことができる。サイト管理人が指摘しているように、「ネイチャー誌が,この種の同一テーマをわずか2ヶ月間で3回にわたって取り上げるのは異例のこと」であると思われる。なお、『ネイチャー』日本語目次における記事タイトルは以下の通り。

――「拉致被害者のものとされる遺骨のDNA鑑定をめぐって、日本と北朝鮮が厳しく対立。」(2005年2月3日)
――「日本政府は、DNA鑑定には不確実さがあることを直視し、北朝鮮との交渉は外交手段によって進めるべきである。」(2005年3月17日)
――「拉致被害者の遺骨DNA鑑定を行った研究者が警視庁科学捜査研究所法医科長へ転職したのは鑑定結果に関する疑問封じか。」(2005年4月7日)

 「火葬された遺骨は誘拐された少女の運命を証明できない?」
 http://www.kit.hi-ho.ne.jp/msatou/05-02/050211Nature-asyura.htm

 「問題は科学にあるのではなく、政府による科学の問題への干渉」
 http://www.kit.hi-ho.ne.jp/msatou/05-03/050322asyura-nature.htm

 「もしも日本がこの方向に進み続けるなら、日本の科学の評価は根底からつき崩される」
 http://www.kit.hi-ho.ne.jp/msatou/05-04/050414nature.htm

(▼3) 『日刊ゲンダイ』2005年2月26日号、『週刊現代』2005年3月19日号、『共同新聞』3月26日付インターネット版、『TIME』アジア版2005年3月28日付記事、『朝日新聞』2005年5月10日付記事などで例外的に取り上げられた。

大震災と福島原発「事故」と民族差別

 宮城県が朝鮮学校への補助金の打ち切りを決定したという。

 横板に雨垂れ:「暗い予感-被災地の朝鮮学校に対し補助金交付の打ち切りを決定した宮城県」
 http://yokoita.blog58.fc2.com/blog-entry-129.html 

 私も4月1日に宮崎県知事宛に以下の抗議メールを送った。


このたび宮城県が朝鮮学校への補助金の打ち切りを決定したとの報道に接し、一筆申し上げます。

昨日3月31日付の産経新聞の報道によれば、「北朝鮮による韓国・延坪島の砲撃事件を受けて凍結していた」2010年度分の「152万1840円は未曾有の東日本大震災の被災地という人道的な見地から31日、交付した」とのことですが、この理屈に従えば、2011年度も「未曾有の東日本大震災の被災地」である宮城県は、朝鮮学校への補助金を支給し続ける義務があるはずです。もし2011年4月1日付で宮城県はすでに「東日本大震災の被災地」ではなくなるとのご判断であれば、国内外からの復興支援はすべて他県に回すのが筋ではありませんか。

また、村井嘉浩知事は文部科学省の交付基準の改定を持ち出して、2011年度は「条件が合わないことから交付しないこととした」などと説明されていますが、日本による植民地支配の結果として日本に生まれた朝鮮人の子どもたちが、朝鮮人として生きていくためには、(日本がかつて民族から奪った)朝鮮の歴史や言葉や文化を教える、朝鮮人による朝鮮人のための学校が必要です。民族教育に代表される、朝鮮人の民族自決権を保障することこそ、日本の行政の最大の義務の一つではないのでしょうか。

どうか良識的なご判断から、朝鮮学校への補助金の打ち切りを撤回してくださるよう、切にお願い致します。


 昨年2010年4月から12月までの「知事への提案」数は290件らしいので、たとえ数十通でも抗議メールが届けば無視を決め込むことは難しくなるのではないだろうか。それにしても、大震災に乗じた朝鮮人差別の助長を、行政が率先して行っているのだから、「在特会」との棲み分けもなかなか楽ではないだろう。

 ところで、今回初めて知ったのだが、「日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)の関税撤廃リストに放射性物質及び”使用済み原子炉用(放射性)燃料要素(カートリッジ)”が含まれており」「日タイ経済連携協定(JTEPA)も同一文言で記述されている」という。福島原発の放射性廃棄物(の一部)を(最終的には)アジアに「輸出」するという恥知らずな案が、すでに東電や政府の間で検討されている可能性もあながち否定できない。民族差別を一向に克服できない日本国家・日本社会がそのまま「復興」しても、アジアにとっては大いなる災いであると思う。


【蛇足】

 4月1日のエントリーについて補足しておくが、「福島原発からプルトニウムは漏れていない」(というか言及すらしない)「プルトニウムの検出調査は行っていない」「プルトニウムは重いから風で飛ばない」「今回検出されたプルトニウムはビキニ環礁実験のときに飛んできた」「プルトニウムは飲んでも安全である」といった言説は、すべて東電や原子力安全・保安院、原子力安全委員会、日本原子力研究開発機構(旧動燃)らによるものであり、私の創作ではない。放射能を絶賛する工学博士も実在の人物である(なお、私が会った人物は稲恭宏・医学博士ではない)。

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